abstract of BHmag2017





ブラックホール時空の理論と観測 @ 南紀白浜

 アブストラクト


アブストラクト集(v2)

 カー時空での波動光学の数値計算
 南部保貞(名大)

カー時空上での波動方程式を数値的に解くことでブラックホールに よる波の関与する現象(準固有振動, superradiance) 並びに波を用いた像形成を議論する. Mathematicaを用いた具体的な計算方法の紹介をする予 定である.

 ブラックホール回転エネルギー引抜きの因果的機構III
 小出眞路(熊本大)

電磁場によるブラックホールの回転エネルギー引き抜き機構は活動銀河核,マイクロクエーサー,ガンマ線バーストのエネルギー供給機構のひとつとして注目されている。フォースフリー条件のもとで示されたブランドフォード・ナエク機構はその代表的な機構である。ブラックホールの地平面においては物質,エネルギー,情報はすべてブラックホールの外側から内側にしか移動伝播できない.この地平面での因果律を前に電磁場によるエネルギー引抜き機構は直感的にどのように説明されるのであろうか.残念ながらいまのところペンローズ過程のような直感的に理解できる説明は知られていない。この電磁気的なブラックホールのエネルギー引抜き機構についてもペンローズ過程のように負の電磁エネルギーをブラックホールに落とし込むことにより理解しようとする試みはあるが,十分納得できるものは今のところない.実際われわれが平成25年秋季年会において『ブラックホール回転エネルギー引抜きの因果的機構』と題して行った発表において示した電磁エネルギー密度とエネルギー流束密度ベクトルの関係式による説明もカーシルト座標のときは十分ではない(平成26年日本天文学会秋季大会).
一方,電磁場による機構では因果律を問題にすることがそもそも不要であるとする態度もありえる。しかし,地平面からのエネルギーの流れというのは因果律により全く制限を受けないのであろうか.それらの疑問に答えるためにフォースフリー数値シミュレーションを行う.

 ブラックホール候補天体からのエネルギー放出モデル
 國分隆文(立教大)

ブラックホール候補天体として裸の特異点を考える。本発表では、ダスト物質の重力崩壊によって形成された裸の特異点から等方的にエネルギーを放出するような簡単なモデルを提案し、その物理を議論する。

 Analogue rotating black holes in a MHD inflow
 野田宗佑(名大)

流れのある完全流体中で波は流れの方向へ流される。これは波面に垂直に進む射線の運動で見ると、射線が曲がることに対応する。つまり射線は曲がった時空上の光線のような運動をし、射線が感じるmetricが定義される (Acoustic metric)。さらに波の運動はacoustic metricで表される擬似的な曲がった時空上でのKlein-Gordon方程式に従う。特に中心にsinkを持つ遷音速流の場合には、波は音速点の内側から外側へ伝播することができないため、流体上には波に対するblack holeのような構造が見られる。これをacoustic black holeといい、black holeからのHawking輻射を実験で再現する方法として1981年にUnruhによって初めて議論された。流れが角運動量を持つ場合には回転するblack holeの対応物を作ることが可能であり、superradianceを観測するための実験も進んでいる。

本研究ではMHD waveに対するacoustic black holeについて議論する。発表ではまず、完全流体の場合のacoustic black holeについてレビューをし、どのようにacoustic metricが定義されるかを見る。そして、draining bathtub modelと呼ばれる軸対称なinflowを例に取って、波のsuperradianceが議論できることを示す。次にMHDへ拡張する動機について触れた後、MHD waveに対してもacoustic black holeという見方が可能であることを見る。そしてdraining bathtub modelのような軸対称なMHD inflowの場合にMHD waveのsuperradianceが起こるかについて議論する。

Sgr A∗ の一般相対論効果と質量の高精度測定へ向けて
 斉田浩見(大同大)

銀河系中心の巨大 BH 候補天体 Sgr A∗ を周回する星 S2 は,2018 年 4 月ころに Sgr A∗ の最近点を通過すると予測できる。最近点で S2 が感じる Sgr A∗ の重力ポテンシャルの強度は, Hulse-Taylor パルサーなど今までに電磁波観測で測定された重力ポテンシャル強度よりも約 100 倍 強いと考えられる。S2 の最近点における重力を測定することは,電磁波で測定する重力強度の世 界記録を更新することになる。
我々は,S2 から到来する電磁波の赤方偏移 z := λdetect/λemit − 1 の時間発展をすばる望遠鏡を 使って測定することで,Sgr A∗ による一般相対論効果の高信頼度検出と,Sgr A∗ 質量の高精度 測定を目指している。赤方偏移について『測定データ zobs 』,『一般相対論的な予測計算 zGR 』,『ニュートン力学的な予測計算 zNewton 』を突き合わせることで,一般相対論効果の検出が期待で き,Sgr A∗ 質量も(ニュートン力学に基づいて推定している)従来の研究よりも高精度に測れる ことも期待できる。しかし,現在のすばる望遠鏡の測定精度では,BH 自転角運動量は測定できな い。以上の研究計画の実行のため,我々は既に,2014 年から毎年すばる望遠鏡のプロポーザルが 採択されて,S2 のモニター観測を続けている(主観測者;西山正吾(宮城教育大学)さん,赤外 線天文学)。我々の研究計画の現状と今後の課題をまとめる。

本研究会の所期の目的に「基礎的な内容から見直して新しい研究テーマ創設をねらう(本冊子 の p.1 や研究会 HP 参照)」という謳い文句がある。そこで,準備が間に合い,かつ話す時間もあ れば,(大須賀さんと話したことをきっかけに)輻射輸送についてちょっと調べて考えたことを話 したい。
媒質中の輻射エネルギーの輸送方程式は,上手く扱わないと,輸送速度が光速を超えてしまう (らしい)。ニュートン力学の枠組みでは,輸送速度が光速以下になるような輸送方程式の近似法 として Flux-Limited Diffusion(FLD)という考え方が知られている。そして,FLD の一般相対 論的な拡張も議論されている。しかし,ニュートン力学的な議論の FLD では specific intensity Iν [erg/cm2 s Hz] を考えているのに対して,既存の一般相対論的な議論の FLD では integrated intensity I = ∫ Iνdν [erg/cm2 s] を考えていると思われる。積分強度 I を使う限り一般相対論的 な場合の観測スペクトルが計算できないと思われるので,それを何とかしたいと考えている。今のところ,何とか出来るのではないかと思っているが,どうだろうか???

 ARTISTコードによる一般相対論的輻射輸送シミュレーション
 高橋労太(苫小牧高専)

ブラックホール時空中での一般相対論的光子輻射場を計 算するコードARTIST(Authentic Radiative Transfer in Space-Time)を 開発したので紹介する。このコードでは、新たに考案した計算アルゴリズムを用 いることにより、因果的に正確に輻射場の散乱と吸収 の効果を計算することが 可能である。また、光学的に薄い状況(散乱や吸収が効かない状況)では、一般 相対論的ray-tracingの結果を完全 に再現する。特に、photon sphere周囲の軌 道が関連する場合には動的な輻射場を精度よく計算することは一般に難しいが、 ARTISTコードでは用いている数値精度(倍精度や単 精度など)と同等の計算精 度を達成することが可能である。発表では、新たに開発したアルゴリズムや数値 計算結果、将来の課題について講演する。

 ブラックホールへ落下するスパイラルガス雲の運動と放射特性
 森山小太郎(京大)

ブラックホール時空の観測的解明は、事象の地平面の存在の有無、一般相対論の検証のための不可欠な課題である。理論的に、その時空は質量と角運動量(スピン) によって、一意に決定されるため、これらの観測から時空構造を決定できる。質量は観測により、ある程度見積もられている。一方、スピンはブラックホール近傍での相対論的効果を厳密に考慮する必要があり、決定が難しい。また、従来のスピン測定法は、まだ不定性の大きいものもあり、互いに結果も一致していないため、これらとは独立かつ相補的なスピン決定法が求められる。
 発表者はこれまでに、降着円盤内縁から有限の角運動量を持って落下するガス雲からの放射を想定し、その非周期的な光度変動から、スピンを原理的に測定できることを示した。しかし、用いたガス雲モデルは流体効果、磁場、放射圧による時間変化がないと仮定しているため、これらの効果を一般相対論的放射磁気流体シミュレーションにより取り入れ、より現実的なガス雲のふるまいを調べる必要がある。今回は自転していない恒星質量ブラックホール近傍の比較的低温の降着円盤について、質量降着率が亜臨界から超臨界降着率に遷移する前後での、円盤内縁からの降着流の時間変動を調べた(Takahashi et al. 2016)。その結果、ブラックホール近傍で、放射率の高いスパイラル状のガス雲が間欠的に形成され、それは、ほぼケプラー回転速度を維持したまま、ブラックホールに向かって緩やかに落下することがわかった。これは前回想定したガス雲モデルの運動をよく再現している。さらに、ブラックホール近傍のスパイラルガス雲からの光度変動を一般相対論的レイトレーシング法を用いて調べたところ、前回と同様の特徴である、非周期的かつ相対論的な光度変動を示すことを発見した。この光度変動の周期は数百Hz であり、high frequency QPO を説明できる可能性がある。

 Blandford-Znajek 機構
 小嶌康史(広島大)

回転するブラックホールからエネルギーを取り出すBlandford-Znajek 機構が数多く議論されているが、混乱状態である。ここでは問題点を論じる。

 宇宙ジェットの磁場形状とBlandford-Znajek 機構効率
 高橋真聡(愛教大)

いよいよM87宇宙ジェットの根元部分が見えようとしている。今年の春に観測計画が予定されているEHT (Event Horizon Telescope)プロジェクトが期待通りの結果を示すならば、ブラックホール影やその周りのプラズマ分布(降着ガス流および宇宙ジェット根元)が確認される事になる。その一方で、宇宙ジェットの形成機構やエネルギー源、ジェット放出後の加速や磁場形状については未だに未解決な要素が多く、観測的研究のみならず理論的研究も進んでいない(様々な理論モデルはあるものの多くの課題を含む)。この講演では、磁場が卓越したブラックホール磁気圏について磁場形状を数値的に解き、Blandford-Znajek 機構に依るエネルギー引き抜き効率とその方向依存性について議論する。また、ブラックホール磁気圏の外部領域でのMHD解(磁場形状・プラズマ加速の解析解)をM87ジェットの観測データに適用し、ブラックホール近傍領域と宇宙ジェットを関連つけるための議論を展開する。

 Sgr A*のまわりを運動するS星の一般相対論効果による遠点移動について
 孝森洋介(和歌山高専)

銀河系中心には太陽の400万倍もの質量をもったブラックホールがあるとされている。ブラックホールの質量やスピンといった性質は,周辺の星の運動から探ることができる。本発表では,銀河系中心の時空はKerr時空であるとし,星の軌道を一般相対論的に求め,遠点が移動する様子について議論する。また,遠点の移動を実際の星の観測と比較して銀河系中心天体の性質についてどのようなことが言えるのかを議論する。



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