重力レンズ:重力場における光線の屈曲について

前川芳志枝

一般相対論の帰結である「光は曲がる」ということはまず理論が先行した。 理論上光は重力によって曲がる。遠方にある天体からの光は その経路にある重力の影響で曲がりながら地球に届いているという。 中でも巨大な質量をもつ天体の重力によって光の通る道筋が 曲げられ、もとの光より明るくしたり、別々の方向に放射された光をずっと遠くで 交差させたりする現象を『重力レンズ』という。 重力レンズの発見は理論先行の一般相対論の直接的な検証法の一つとして、 歴史的に大いに役立った。 1979年に最初の重力レンズ系が観測されてから20年足らずの間に 数々のいろいろな重力レンズが発見されているが、比較的新しい議論であり 統計も時間的に若く、まだまだ研究の余地も多い。 また可能性として重力レンズの解析から、 銀河や銀河団など大きな天体の質量や天体までの距離を調べたり、 ダークマターについて知ることができる。 さらにブラックホールの存在を確かめたり、宇宙論のいろいろな定数を決定する 手段の一つとなるなど、その利用価値も高いと思われる。

光は最も速い経路である測地線上を進む。 扱う一般座標系に測地線の系を採用すればある瞬間の ある場所での光線の運動方程式が決まるということになる。 重力場を決めるアインシュタイン方程式と 一般座標系での運動方程式とを用いて、 光線の曲がり角や像の数を実際に計算することができる。 本文ははじめに一般相対論の基礎に触れ、 巨大な質量をもつ天体のつくり出す重力場について、 そこでの運動と場による影響を公式化する。 またそこで現実に光が曲がることについて考える。 そして特に、貴重な「見える一般相対性理論」のひとつ、 宇宙に浮かぶの巨大な蜃気楼:重力レンズについて紹介する。 簡単なモデルとして、扱う重力場には静的で球対称なシュバルツシルト時空を 採用し、光線の曲がり角を計算してみる。 その結果から重力レンズとして実際にどのような ふるまいを見せてくれるのか調べていく。 なお、本文中で省略した途中式、一般相対論の基礎的原理は、 付録として末尾に添付した。

本研究では、重力レンズについてその特異な性質について調べ、 重力レンズの起こっている理想的な場合の もっとも簡単なモデルを組み立てることを目的としたが、 実際には宇宙のゆがみは複雑であるために、それを無視できるほど 大きなスケールでしか、シュバルツシルト時空は採用できない。また スケールが大きくなればなるほどに、観測上の誤差も大きくなるのは避けられない。 任意の重力レンズについての厳密な解析はかなり難しそうである。 よって今後さらに多くの観測とくわしい計算結果の統計的な解析が望まれる。




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Updated: October 9, 1997