2010年 春の物理学会 シンポジウム <主題> 『一般相対論の直接検証:ブラックホール・シャドーの直接撮像と重力波の検出』 <趣旨・内容> 一般相対性理論は、宇宙背景輻射や大規模構造の起源など、宇宙全体の構造を 探る上で必要不可欠な基礎的理論となっている。また、一般相対性理論はブラッ クホールの存在を予言する。実際、ガンマ線バーストや活動銀河核など、コン パクトな領域における膨大なエネルギー放出を説明するものとして、その存在 が信じられるようになった。現在、ブラックホール「候補天体」がいくつも知 られている。このように、一般相対論は、現代の宇宙物理学・天文学で重要な 地位を占めている。しかし、その『直接検証』は今だに成されていない。一般 相対性理論が正しいことを直接検証することは、いまや非常に重要な課題であ る。 一般相対論の検証実験(観測)としては、地球や惑星空間の弱い重力場における ものがある。一般相対論はこれらのテストをクリアしてきているが、強い重力 場における検証に耐え得るかどうかはまだ分からない。これまで、強い重力場 での現象による一般相対論の検証手段としては、『重力波検出』が最有力候補 だと認識されてきた。数値的・解析的な重力波の理論研究も多数行われ、重力 波源となる様々な天体現象・その発生率・重力波のテンプレートなどの理解が 深まっている。また、重力波の検出装置が既に幾つか稼働しており、データ解 析法の開発も進み、新たな検出計画も着々と進行している。既に重力波の理論 と実験には、数多くの人材が結集している。 ところで昨年、Doelemanらはブラックホールの地平面サイズに肉薄する電波観 測に成功した(ref:S.S.Doeleman, et.al, Nature455(2008)78)。これにより、 電波観測によってブラックホールの存在を直接検証できる、すなわち一般相対 論を直接検証できるのが間近に迫った、という気運が世界的に高まっている。 この電波観測の精度はまだ十分ではないが、最終的に目指すのは『ブラックホー ルシャドー』といわれるイメージを撮像することである。ブラックホールシャ ドーとは、ブラックホールを取り巻く降着円盤から放出される輻射の一部がブ ラックホールに吸収され、我々に光が届かない領域が生じ、黒い影として観測 されるというものである(ref:高橋労太 Astrophysical J. 611(2004)996)。 降着円盤からの光の像の一部に生じる影としてブラックホールの姿が見える、 つまり「事象の地平面」の存在を立証できるのである。そして、事象の地平面 は一般相対論によって初めて理解できるものなので、その存在をブラックホー ルシャドーの直接撮像で立証することは、一般相対論の直接検証となる。しか しこれまで、ブラックホールシャドーの直接撮像は、天文学的な興味・視点か ら研究されることはあっても、物理学的な視点、特に一般相対論の直接検証と いう目的で研究されることはなかった。また、ブラックホールシャドーに携わ る理論と観測の人材は、重力波のそれに比べれば小規模に留まっている。 一般相対論の直接検証に向けて重力波検出と電波観測という2つの手段が現実 的になってきた今、タイムリーな企画として、本シンポジウムを企画する。一 般相対論の直接検証をキーワードに、重力波に携わる研究者とブラックホール シャドー(ブラックホール候補天体の理論・観測)に携わる研究者に講演をお 願いし、相互理解と相互交流を図りたい。これは、両者が切磋琢磨して互いを 刺激し合えるような関係を築く初めての機会である。特に、現在天文分野で活 躍している研究者を招くことで、ブラックホールシャドーの重要性を物理系の 研究者の視点から考えて認識したい。また、今回招く天文系の研究者には、ブ ラックホールシャドー研究が一般相対論の直接検証になる、という意識を持っ て頂けるようにしたい。国際的にもブラックホールシャドーの関心が高まり始 めている中、物理学会で開催する本シンポジウムが一般相対論・宇宙物理学研 究にとって新しい視点を提供する機会になることを期待する。 近い将来、重力波とブラックホールシャドーが共に観測できるようになった暁 には、重力波観測と電波観測を融合した新たな『観測的ブラックホール物理学・ 天文学』が誕生するだろう。本シンポジウムで、重力波観測と電波観測でどん な協力が可能かも議論できたら面白い。 なお、本シンポジウムは3つの部分から構成する:(1) 現在知られているブラッ クホール「候補天体」の理論・観測に関するレビュー、(2) ブラックホールシャ ドーの理論・観測に関するレビュー、(3) 重力波の理論・検出器に関するレ ビュー、である。講演者の方々には、「マスター院生にも分かる程度」を意識 して頂き、基礎的な内容から始めて概論をお話頂くようにお願いする。一般相 対論や理論天文学の研究者だけでなく、素粒子や原子核などを専門としながら も一般相対論に関心を持つ研究者も聴衆として想定する。 <講演者> === プログラム(案) === 開催日: 3月21日 13:00 - 16:40 # 所属の後の番号は、学会の会員番号 1. はじめに: 斉田 浩見(大同大学)38321E -- 10分 [ 座長:斉田 ] 2. ブラックホール候補天体: 浅田 秀樹さん(弘前大学)32400J -- 20分+5分 -- SgrA* の周りの恒星運動などの理論 3. ブラックホールシャドーと降着円盤の鉄輝線: 高橋 労太さん(理化学研究所)46064K -- 25分+5分 -- BH Shadow と鉄輝線の理論 4. 電波観測と赤外観測の現状と将来計画: 三好 真さん(国立天文台)36055A -- 25分+5分 -- BH候補天体まわりの恒星運動の観測(赤外) BH Shadow 撮像の候補天体(SgrA* など)と将来計画(電波) 休憩 20分 [ 座長:高橋(真) ] 5. X線観測の現状と課題: 根來 均さん(日本大学)43136C -- 20分+5分 -- BH候補天体からの鉄輝線観測の現状と課題 6. 重力波理論の現状と課題: 田中 貴浩さん(京都大学)29479J -- 25分+5分 -- 重力波の Target Event(数値研究と event rate など) 理論の現状と課題 7. 重力波検出器の現状と将来計画: 神田 展行さん(大阪市立大学)25801F -- 25分+5分 -- 検出器の現状と課題、データ解析法 8. まとめと総合質疑討論: 高橋 真聡(愛知教育大学)52629F -- 20分 ==========