研究内容

プラズマ宇宙は多彩な天体活動現象で溢れています. それらの天体活動現象を根本原因から理解することが本研究室の目標です. これまでは主に「超新星・ガンマ線バースト・超強磁場中性子星(マグネター)」や「降着円盤」、そして『太陽』の理論・シミュレーション研究を行ってきました(研究成果のページを参照). これらのテーマに加え、今後は過去・現在・未来の太陽活動が地球気候に及ぼす影響を解き明かす「宇宙気候研究(太陽考古学)」や愛教大天文台の60cm望遠鏡を活かしたスタースポット(恒星黒点)の観測的研究などにも挑戦していきたいと考えています.

宇宙プラズマを記述する磁気流体力学(MHD)には強い非線形性が備わっているため、紙と鉛筆だけでは太刀打ちできない場合がほとんどです. 非線形現象を近似無しにそのまま扱うための強力な手段が(スーパーコンピュータを使った)シミュレーションです. 本研究室では理論とシミュレーションの両方を駆使しながら、天体プラズマにおける磁気流体現象を調べています. 『シミュレーションは理論のカンニング、物理のエッセンスを抜きださなければ意味がない』これは私の指導教官の言葉です. 「やって終わり」のシミュレーションではなく、得られたデータの中から物理の本質を抜き出すことを目指します. また、愛教大天文台の望遠鏡や太陽観測衛星で得られたデータを使った観測的研究も今後は視野に入れていきたいと考えています. 

研究室に配属される学生の研究テーマは、分野を限定せず、また理論・シミュレーション・観測を問わず、各人と相談して柔軟に決めていきたいと考えています. 

✴︎ 主な研究テーマ:          

・太陽黒点の起源 : 

天体活動現象の多くは、磁場に蓄えられた磁気エネルギーが爆発的に解放されることによって引き起こされます. では、根本原因である天体の「磁場」はどのような機構で生成されるのでしょうか?「天体磁場の起源」は宇宙物理学の重要な未解決問題の一つであり、その謎を解き明かすためのプロトタイプモデルが我々に最も近く詳細観測が可能な『太陽』です. 

フレアやコロナ質量放出(CME)などの太陽活動現象の主たる原因が「黒点」であり、太陽内部で生成された磁場・磁気エネルギーが表層に輸送された帰結として出現します. 太陽黒点は(太陽内部の流れ場と比べて)非常に大きな空間スケールと、約11年の周期性(非常に長い時間スケール)を持つことが知られています. 黒点のような「時空間コヒーレンスの高い磁場」を生み出す機構は解明されておらず、それを定量的に理解することが太陽物理学最大の目標になっています. 太陽に関連した本研究室の研究成果を以下に簡単にまとめておきます:

(1) 回転球殻系におけるMHD熱対流のグローバルシミュレーション

Yin-Yang格子(c.f., Kageyama & Sato 2004)を使った独自の太陽計算コードで回転球殻MHD熱対流シミュレーションを行っています. Masada et al. (2013) では、対流層の底にある放射層で「準周期的極性反転を示す大局的磁場」が生成されることを明らかにしました.  右図の(a)は対流層を満たす乱流磁場、(b)が放射層で生成される大局的磁場、(c)は極性反転後の大局的磁場を示しています(色の違いは極性の違い. オレンジが正極性、青が負極性に対応). またMabuchi, Masada, et al. (2015)では、系のロスビー数の違いが回転球殻系の対流・磁場構造に顕著な影響を及ぼすことや、ロスビー数が比較的小さな系では下図(対流層上部での方位角磁場の時間-緯度図. 色は磁場強度で黒が正、白が負極性に対応)に示すような太陽蝶形図様の磁場の時空間進化が得られることを明らかにしました. 







(2) ボックスモデルを使った対流ダイナモの高精度・長時間シミュレーション

グローバルな回転球殻シミュレーションは様々な空間スケールの流体現象が複雑に影響を及ぼし合うため、得られたデータの中から物理のエッセンスを抽出するのが難しいという問題があります. 本研究室ではその問題を克服するために、太陽内部をボックス型の計算領域に簡略モデル化して調べる研究も進めています. 太陽対流層は激しい乱流状態になっていますが、我々は「乱れた流れの中で乱れのない磁場(時空間コヒーレンスの高い磁場)が組織化される」ことをMasada & Sano (2014a)で明らかにしました. 「沸騰したお湯」の中に「素麺」を入れるとぐちゃぐちゃにかき乱されます. 太陽内部の対流は沸騰したお湯のようなもの、磁場は素麺のようなものだと考えれば良いでしょう. 我々の研究成果は、例えて言うなら、沸騰したお湯の中で素麺が「束状構造」をとり続ける可能性があるということを示唆するものです. 

下図に示したのは、太陽内部を模擬したボックス型のシミュレーションの結果得られた大規模(= 乱れのない)磁場の時間-深さ進化図です(Masada & Sano 2014a,より抜粋). 橙色が正、青色が負極性であり、周期的な極性反転をともなう磁場が生成されていることがわかります (点線に挟まれた領域が対流層).  Masada & Sano (2014b)では、このような大局的磁場生成を乱流α効果と呼ばれる磁場の誘導効果が担うことを初めて定量的に明らかにしました. 

最近は太陽の内部状態により近い計算モデルを使った研究を進めており、下図に示すような太陽グラニュール状対流【(a)はシミュレーションの対流構造、(b)は太陽のグラニュール対流の観測結果】や太陽黒点状の磁気スポット【(c)が対流層表面に現れた磁気スポット構造のスナップショット、(d)はその時の磁力線の三次元構造】が再現できるようになりました (Masada & Sano 2016, ApJL). 


・超新星やガンマ線バーストの爆発機構に対する磁場・磁気乱流の効果の研究

超新星やガンマ線バーストの爆発機構は未だ謎に包まれています. これらの超高密度天体内部の物質はニュートリノと相互作用することが知られており、爆発機構の解明のためにはニュートリノ輻射を考慮した磁気流体力学(MHD)の理解が必要です. Masada et al. (2006), Masada et al. (2007a) では、超新星内部の密度成層構造やニュートリノによる エネルギー・運動量輸送を考慮したMHD不安定性 (特に、磁気回転不安定性に注目) の線形理論を構築しました. また、Masada et al. (2007b) では構築した線形理論を大質量星の重力崩壊の際に形成される超高温・高密度降着円盤 (hyperaccretion disk) に応用し、ガンマ線バーストの新しい爆発シナリオ “Episodic Disk Accretion Senario”を提唱しています. 最近ではこれらの線形理論をより現実的な状況に発展させ、磁気回転不安定性によって駆動される磁気乱流がが超新星爆発に及ぼす影響を、シミュレーションで定量的に検証しています (Masada et al. 2012, Masada et al. 2015). 我々の研究の結果、磁気回転不安定性によって駆動される磁気乱流が乱流加熱を介し超新星爆発の爆発エネルギーを増幅する可能性があることが示されました. 下図(左)はMasada et al. (2007b)で提唱したガンマ線バーストの爆発シナリオ “Episodic Accretion Scenario”の模式図、(右)は磁気回転不安定な超新星内部の飽和状態をスナップショットで示しています(Masada et al. 2015より抜粋). 


・超強磁場中性子星(マグネター)における巨大フレアの駆動機構の研究

中性子星の大部分は10^11-10^12 Gの磁場を持つことが知られています. 一方で、宇宙には普通の中性子星より2~3桁強い磁場を持つ超強磁場中性子星(=マグネター)と呼ばれる種族も存在することも近年の観測からわかってきました. マグネターはしばしば巨大フレアを起こすことが知られており、直近では2004年にSGR1806-20で巨大フレアが観測されています. Masada et al. (2010) では、2004年に起きた巨大フレア/質量放出現象を統一的に説明する理論モデルを提唱しました(下左図).   我々が構築したモデルは、太陽のフレア/コロナ質量放出理論を中性子星の物理環境に応用したものですが、エネルギー輸送の担い手が「光子」である点が太陽フレアとは本質的に異なります. Matsumoto, Masada, et al. (2011) では、相対論的MHDシミュレーションを使ってマグネターフレアの定量モデリングも行っています(下右図). マグネターフレア自体がおおよそ数年〜数10年の頻度でしか観測されない極めて稀な現象であるため、提唱した理論モデルの正当性は観測的にはまだほとんど検証されていません. 次回のフレアが理論モデルの定量検証のための絶好の機会になると考えられます.   


・降着円盤の角運動量輸送機構の研究

宇宙にはあらゆる時空間スケールで普遍的に降着円盤が存在しています. 活動銀河核や原始惑星系円盤、ガンマ線バーストやマイクロクエーサーなどが代表例です(中心天体はブラックホールや中性子星、原始星など様々).  重力と遠心力がバランスする円盤系で、物質の降着を実現し重力エネルギーを解放するための鍵が「角運動量輸送」です. 物質が持つ角運動量が何らかの機構で引き抜かれることで、物質は中心天体に落下できるようになります. 降着円盤内の角運動量輸送を担うと考えられているのが乱流粘性であり、その起源の最有力の候補が「磁気回転不安定性 (= MRI)」が駆動するMHD乱流です (Balbus & Hawley 1991). Masada & Sano (2008) ではMRI乱流の非線形シミュレーションを行い、乱流強度が円盤の磁気プラントル数に依存する可能性があることを理論的に明らかにしました. この結果を応用し、Takahashi & Masada (2011) では角運動量輸送効率が磁気プラントル数に依存する降着円盤モデルを構築し、MHD乱流強度の磁気プラントル数依存性が、円盤の非定常質量降着の起源を与える可能性を指摘しています. 



・太陽活動の地球気候への影響

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