ABSTRACT of BHmag2012

「第5回ブラックホール磁気圏勉強会」研究会

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★基礎講座:双曲線と直線の初等幾何で理解する特殊相対論:基本原理から運動論的ドップラー効果まで/斉田浩見
ドップラー効果には運動論的ドップラー効果と重力的ドップラー効果が考えられます。後者は一般 相対論で記述する効果であり中性子性やブラックホールの近傍からの放射で顕著になりますが,他の場合には(現在の観測技術 · 精度では)無視できます。一方,運動論的ドップラー効果は特殊相対論でも記述できる効果 であり,非常に多くの天文現象において観測されるものです。以上の事実は,例え一般相対論を必要としない 天文研究分野は可能だとしても,多くの天文研究分野において特殊相対論に対する一定の理解は不可欠だ,と いうことを意味するのではないでしょうか。そこで,この「勉強会」と銘打った研究会で,あらためて特殊相 対論を復習してみます。初等幾何による見通しの良い特殊相対論の理解の仕方をまとめて,初等幾何的な方法 で運動論的ドップラー効果を導出します。
研究会の HP(http://www.phyas.aichi-edu.ac.jp/ takahasi/BHmag2012/index.html)にこの発表で使うノー トを載せておきます。このノートをそのまま pdf で映して話す予定です。
一般相対論を知っている人に対してはちょっと気恥ずかしい気持ちですが,何か引っかかったらツッコミを下さい。

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★ブラックホール降着流にまつわる話題から/嶺重 慎
最近のブラックホール降着流にまつわる話題から、いくつかとりあげて概説する。扱う内容は、超臨界降着流とクランプ形成、円盤不安定性?バイナリーブラックホールなど。

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★定常パルサー磁気圏の数値的解析手法について/大川博督
パルサーは宇宙の中にある極めて安定した周期(数ミリ秒から数秒)で電磁波を放出する天体で す。その正体は超新星爆発などによって残った高密度な中性子星ではないかと考えられています。一般に,パ ルサーはある程度強い磁場を伴って高速回転していると考えられており,私たちが観測する電磁波を放射する 機構は,パルサー周辺における磁気圏の構造に依存します。そのため,パルサー周辺の磁気圏構造を理解する ことはパルサーを理解する上でも重要であると言えます。
パルサー磁気圏についての研究は古くからなされています。最も単純な理解として,真空中の双極子型の磁 場構造により双極放射をするというモデルがありますが,Goldreich & Julian(1969) で指摘されているように, パルサーの大域的な磁気圏構造を知るためには磁場の構造だけでなくプラズマの運動も考慮する必要がありま す。するとこの系は非常に非線形であり,プラズマの運動と磁場の構造を矛盾無く取り扱うことは難しいです。 一方で,強磁場においてはプラズマの慣性を無視するフォースフリー近似が有効であると考えられています。 また,この系が定常かつ軸対称であることを仮定すると,パルサー磁気圏は磁束,ポロイダル電流,角速度の 3つの量で特徴づけられるパルサー方程式に従うことが示されます。
しかしながら,パルサー方程式は非線形の楕円型方程式であり,さらにこの方程式には, Light Cylinder(LC) と呼ばれる特異面が存在します。部分的な解については多くの研究がありますが,LC を含めたパルサー方程 式の解を構成する方法は,Contopoulos, Kazanas and Fendt(1999) によって初めて提唱されました。この数 値計算手法は CKF 法と呼ばれ,現在では主にこの手法を用いて研究が進められています。
CKF 法は強力な手法でありますが,その CKF 解がパルサー方程式の唯一の解であるかという点と電流の帳 尻を合わせるため人工的に current sheet と呼ばれる電流分布を課しているという点については,未だに議論 の余地を残しているところです。私たちは,LC を超えてもフォースフリー近似が成り立つという仮定はとり あえず変えず,電流分布を与えることで,パルサー方程式を数値的に解くという立場で研究を進めています。 本発表では,パルサー方程式を解くための新しい数値計算手法について述べ,current sheet なしでのパルサー 方程式の解や現状の結果について発表させていただきたいと思います。

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ブラックホール磁気圏での磁気リコネクション/小出眞路
最近,理想GRMHDの数値計算により,ブラックホール磁気圏において反平行磁場が自然に生成されることが示されてきた.その反平行磁場の電流層において磁気リコネクションが頻繁に起こっていると考えられる.ブラックホール磁気圏の磁気リコネクションを取り扱う最も簡単な近似は抵抗性GRMHD方程式により与えられる.抵抗性相対論的MHDの因果律についてコメントした後,抵抗性GRMHDの数値計算のテスト計算およびブラックホール近傍での磁気リコネクションの計算について示す。

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★一般相対論的MHD数値計算によるBH回転エネルギー抽出の検証/眞榮田義臣
回転するブラックホールから、電磁的作用を通して回転のエネルギーが外部に引き抜かれる過程はBlandford-Znajek 過程(BZ 過程)として知られている。我々は、一般相対論的磁気流体(GRMHD)計算を用いて、ブラックホール磁気圏における BZ 過程によるエネルギー供給を検証してきた。シミュレーションには京大基礎研の長滝の GRMHD コードを採用した。
同様の手法を用いた過去の研究ではBHからジェットへのエネルギー供給に着目したものが多い。また、シミュレーションの初期条件としても、降着円盤内部のみに磁場が存在する(トーラス磁場)モデルが採用されることが多く、BHと円盤との磁場による結合については関心が集まっていなかった。
我々はこれまで、ブラックホール地平面と円盤を直接つなぐ磁場形状を採用し、計算と解析を行っている。そのような磁場形状の下では、BZ 過程によって効率的にBHから円盤へとエネルギー供給が起こることが期待され、それが動機となっている。また、プラズマの初期条件としては、Fishbone-Moncrief 型平衡トーラスを採用した。以前のこの勉強会では、磁場形状としてGhosh (2000) による解を用いた計算を紹介したが、その後もこの磁場解の下での計算・解析を続けた。結果、円盤の降着を促すまでに磁場が成長し、BZ過程効果でエネルギーが引き抜かれることなどが確認された。一方で、BH地平面で磁場が発散することによるシミュレーション上の難点も存在しており、我々の想定する磁場形状としては、より安全にシミュレーションに利用できる磁場解を新しく採用する必要が有ると考えた。
さらにその後は、Tomimatsu & Takahashi (2001)による、Ghosh (2000)の難点を克服した磁場解を新たに採用し、BZ過程効果の検証を続けた。結果として、過去の研究でも用いられたトーラス磁場に比べて、ジェットよりも円盤へのエネルギー供給が大きくなる一方、トータルで取り出されるBH回転エネルギーには大きな差がないことなどが確かめられた。
講演では、以上のようなこれまでの解析結果に加え、その他の物理量も含めてBHスピンパラメータへの依存性なども論じる予定である。

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★相対論的抵抗性輻射磁気流体方程式の数値解放と相対論的磁気リコネクジョン問題への応用/高橋博之
磁気リコネクションの重要性は太陽や磁気圏,実験室系プラズマなど様々な分野で指摘されている が,ブラックホール降着円盤やマグネター,ガンマ線バースト等の高エネルギー天体でもその重要性が指摘さ れている。このような天体では磁気エネルギーが静止質量エネルギーと同程度となるため,相対論的取り扱い が必要となる。また,高温,高密度天体では輻射エネルギー密度も同程度となり,平均自由行程も短くなるた め,輻射の効果を取り入れた相対論的磁気リコネクションモデルを構築する必要がある。そこで我々は相対論的 磁気リコネクションの数値モデルを構築することを目的として相対論的磁気流体数値実験を行っている。本講 演ではまず,近年行われている相対論的磁気リコネクションの相対論的抵抗性磁気流体 (Relativistic Resistive Magnetohydrodynamics, R2MHD) 数値実験についてレビューする。その後,R2MHD に輻射 (Relativistic Resistive Radiation MHD, R3MHD) を取り入れる方法について紹介し,さらに R3MHD を用いた世界初とな る磁気流体シミュレーションの初期成果について報告する。

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★宇宙項を持つブラックホールの準固有振動/吉田至順
ブラックホールの固有振動は、無限遠と地平面への波の漏れのため定常的な振動にならず、時間に 関して指数関数的な減少を伴う。そのため準固有振動と呼ばれる。漸近的に平坦な時空中のブラックホールの 準固有振動は重力波による観測において非常に重要で、その基本的な性質は既にほぼ解明されている。
その一方で、宇宙項を持つブラックホール解は、これまで非現実的なものと考えられ、あまり真面目に考え られていなかったが、最近、AdS/CFT 対応と呼ばれる、負の宇宙項を持つ時空とゲージ理論との双対性が指 摘され、ゲージ場理論を理解するという側面から負の宇宙項を持つブラックホール解の研究が割と真面目に行 われている。(本講演では、 AdS/CFT 対応と直接関係する話は残念ながらありません。)
宇宙項を考慮すると、ブラックホール解は、宇宙項の符号に依って、ブラックホールから離れたときの漸近 的な時空の構造が平坦な時空とは異なる。そのため準固有振動も宇宙項によって影響を受ける。本講演では、 宇宙項のブラックホール準固有振動への影響について簡単に解説し、最近の我々の研究について簡単に紹介 する。

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AGNジェット根元のVLBI観測/秦 和弘
活動銀河中心核(AGN)における相対論的ジェットは巨大BH+円盤システム(中心エンジン)によって駆動される、宇宙最大級の高エネルギー現象である。その形成機構は宇宙物理学における積年の謎であり、その解明には中心エンジン極く近く、根元(生成)領域の詳細な探査が鍵を握っている。高い分解能を実現するVLBI観測はこの領域をダイレクトに探査可能な唯一の手段であり、特に近年のVLBIによってホライズンスケールの構造にいよいよメスが入ろうとしている。本講演では現在我々がターゲットにしているM87をはじめとして、最新のVLBI観測から明らかになりつつあるAGNジェット根元領域の描像について紹介したい。また、VLBIジェット研究の今後の動向/展開についても触れたい。

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★Toward a Unified Model of Relativistic Jets from Accreting Black Holes/広谷幸一
Relativistic jets are observed in black hole X-ray binaries (BHXBs) and active galactic nuclei (AGNs) and are believed to be powered by rotating black holes. It remains unsettled, however, why the jet luminosity increases with increasing accretion rate but vanishes if the accretion rate exceeds a certain limit. By solving the inflow properties (e.g., magnetic-field strength and the plasma flux per magnetic flux tube) as a function of the accretion rate from the analytical solutions of an accretion disk, and examining if the magnetohydrodynamic Penrose process works under those inflow properties, we demonstrate that the hole's rotational energy can be extracted when the inner part of the disk becomes an advection-dominated-accretion flow (ADAF), which vanishes above a certain accretion rate. We also demonstrate that the extraction takes place more efficiently with increasing accretion rate (as long as the ADAF guarantees magnetic dominance near the hole), because a stronger magnetic field can be sustained by a denser, outer standard disk. Proposing a new paradigm of the disk-jet couplings in the strong gravitational field of a rotating hole, we explain various observed connections between disks and jets for both BHXBs and AGNs.

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★GEMS衛星の開発に関して/田原 譲
GEMS 衛星は2014年に打上予定の世界初の本格的な X 線偏光観測衛星である。偏光度および 偏光角の分布からX線放射源における散乱体・磁場・強重力場の幾何学的情報が得られる。ブラックホール, パルサー,超新星残骸を中心に数十個のターゲットが1%以上の偏光度に対して観測可能であると期待されて いる。

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Black Hole Magnetosphere and MHD Shocks/高橋真聡
ブラックホールへの磁気降着流について紹介する。磁気降着流の性質は、いくつかの流れの保存量で記述できるが、それらパラメータに依存して降着流内の温度分布や密度分布、磁化率などがどのように変化するかについて議論する。これらの諸量の分布は、ブラックホール周辺プラズマからの輻射機構と深く結び付いてくるので、ブラックホール周辺環境の観測に向けて理解を深めておく必要がある。
講演に際しては、ブラックホール磁気圏における磁場構造の概要についても紹介する予定である(ブラックホールと遠方領域を繋ぐ磁力線、ブラックホールと降着円盤を繋ぐループ状磁力線、降着円盤と遠方領域を繋ぐ磁力線)。

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★散逸を考慮したパルサー磁気圏/小嶌康史
磁気圏を数値的に解く場合,Force-Free 近似が用いられることがある。その近似の有効性が問題と なることがあるが,その近似にとって代わる可能性のある Strong Field EM(Gruzinov, arXive 1107.3100) や Resistive Magnetosphere(Li, Spitokovsky, Tchekhovaskoy, arXive 1107.0979) が論じられている。その内容の 紹介と数値解の一部を示す。

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★High Energy Emission from Pulsar Magnetospheres/広谷幸一
A synthesis of the present theoretical knowledge on gamma-ray emission from the magnetosphere of a rapidly rotating neutron star is presented. The combined curvature, synchrotron, and inverse-Compton emissions from ultra-relativistic positrons and electrons, which are created by two-photon and/or one-photon pair creation processes, or extracted from the neutron-star surface, provide us with essential information on the properties of the particle accelerators in the magnetosphere. After comparing various emission models, we focus on the outer-magnetospheric emission model and compare the theoretical predictions with the gamma-ray observations obtained with Fermi/LAT, VERITAS, and MAGIC.

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★粒子加速器としての回転BH/原田知広
2009 年に発見された「加速器としての Kerr ブラックホール」という現象の宇宙物理学的な重要性 に関する最近の状況について話します。導入部分を特に易しくやるつもりです。

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★ブラックホール磁気圏での高エネルギー粒子衝突/伊形尚久
近年,高速回転ブラックホールのホライズンのごく近傍で,任意に大きなエネルギースケールの粒子衝突が起きうることが指摘されている[Banados, Silk,West(2009)].以後の研究の進展により,入射粒子の角運動量の微調整を必要としたこの過程は,微調整を必要とすることなく宇宙物理の自然な枠組みの中で生じることが明らかとなった[Harada, Kimura(2011)].一方最近,一様磁場中のSchwarzschildブラックホールの近傍で,最内安定円軌道上を周回する荷電粒子とそこへ入射する粒子との衝突エネルギーも任意に大きくなるりうることが指摘されている[Frolov(2011)].本発表では,一様磁場中におかれた回転ブラックホールの周りにおける荷電粒子の衝突エネルギーについて議論する.Banados-Silk-Westらの過程の安定性や,ブラックホールの回転がFrolovの過程に与える影響について議論したい.

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★X線で探るAGNの周辺環境/幅 良統
活動的銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN) の活動源が、大質量ブラックホールとそれを取り巻く物質降着流であることは広く受け入れられている。それ故、ブラックホールの実在性や強重力場中の時空構造の解明といった基礎物理過程の検証に於いて最良の実験場であると言える。一方、近年の観測から、AGNの中心核ブラックホール質量とその母銀河のスフェロイド成分の質量との間に極めてタイトな関係があることが明らかとなり、銀河との共進化、宇宙の質量降着史を読み解く上でも極めて重要な研究対象となりつつある。このような背景に於いて、ブラックホールの成長環境、及び、AGN活動が母銀河に及ぼす影響を正しく理解することが重要となる。AGNのX線スペクトルには、様々な相の物質に起因した吸収構造が現れることが知られており、そこからブラックホール極近傍の物質の物理状態や運動状態を調べることが出来る。そこで本講演では、X線スペクトルに見られる吸収構造、及び、時間変動に関するレビューを行い、そこから導かれるAGN周辺の物質分布について議論する。

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★Wave optics in black hole space times/南部保貞
近年,ブラックホール・シャドウの撮像を通してブラックホールの観測的直接検出を目ざす研究が さかんに進められている.理論的解析としては,ブラックホールまわりの降着円盤のモデルを仮定し,その下 で降着円盤を光源として測地線方程式を解くことで (ray tracing),ブラックホール・シャドウの画像を作るこ とができる.ここから得られる情報は,ブラックホールの性質(質量,回転パラメーターなど)を観測的に決 定するために重要な役割を果たす.しかしながら,ray tracing の範囲内では,光の干渉効果やブラックホール の回転による super radiance などの,光の波動性に起因する効果を取り込むことができない.本講演では重力 レンズ効果による像形成が,光の波動性を考慮した wave optics の立場からどのように理解できるかを紹介し, ブラックホール時空への応用を試みる.

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★「ホライズン望遠鏡プロジェクト」について/三好 真
ブラックホ-ル近傍の解像,その降着円盤を観測するにはどうすればいいか?は VLBA 等による 観測的結論として Falcke ら(2000) http://ads.nao.ac.jp/abs/2000ApJ...528L..13F によって示されている。 にもかかわらず,奇妙な学説(論文にもなってないレベル)が横行,日本の観測天文学は大きくこの分野で 10 年を失った(と思っていたら,世界もそんなに進んではいない)。プロジェクト責任者は,いや皆ですが,論 文は自分でちゃんと読んで,自分で理解した方がいい。
*アブストラクト<印刷版>に,昨年 4 月に岩波の「科学」に掲載された記事を添付しましたのでご覧下さい。

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