abstract of Yamaguchi2015

第30回「ブラックホール地平面勉強会」研究会

2015年10月10日(土)〜11日(日) 
山口大学(会場:ホテル喜良久)

講演アブストラクト

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BH地平面研究会@山口

一般講演     (20) = 講演時間15分 + 質疑5分   
R(レビュー)  (40) = 講演時間30分 + 質疑10分
         (60) = 講演時間45分 + 質疑15分

10月10日(土)
< イントロ:一般相対論とVLBI観測の課題 >

  • 13:30 (10)  坂井伸之  ご挨拶・趣旨説明
  • 13:40 (60)  斉田浩見  天文観測のための一般相対論とブラックホール
  •              の定性的な解説(R)
    • BH近傍で十分小さな光源によるバースト的な発光がおきると、強い重力レンズ効果によって、最短距離を通る光線(0巡光)とBHを一週巡る光線(1巡光)が観測者に届く。
  • 14:40 (40)  紀 基樹   巨大ブラックホールジェットの形成機構
  •              の謎(R)
    • 活動銀河中心核で観測される相対論的ジェットは、究極的には中心核にある巨大ブラックホールの重力エネルギーによって駆動されると目されているが、形成の物理的仕組みはいまだ謎である。
    • 数ある活動銀河核ジェットの中でも特にM87ジェットは、宇宙最重量級の巨大ブラックホールをもつ最近傍ジェットとして知られており、ジェット根元の物理状態を探る最適な天体として注目され続けている。 現在、VLBIによるM87ジェット根元の最新観測では、シュバルツシルト半径のわずか10倍程度のサイズの最深部に近づきつつある。
    • 本講演では、基礎古典物理およびこうした最先端のVLBI観測の結果にもとづいて分かりつつある巨大ブラックホールジェット最深部での物理状態および、ジェットの形成機構の理解の上で残っている謎について整理してみたい。
  • 15:20 (20)  休憩

< VLBI観測最前線とBHシャドー >

  • 15:40 (40)  秦 和弘  VLBIで探る巨大ブラックホールジェット根元
  •              観測の最前線(R)
    • 巨大ブラックホール噴出流を理解する上で観測によって中心エンジン近傍を直接撮像することは欠かせない。VLBIはシュバルツシルト半径に迫るスケールで噴出口の構造を直接探査できる唯一の方法を与える。本講演では主にM87をはじめとした近傍のジェット天体に関する最新のVLBI観測結果や動向についてご紹介していきます。
  • 16:20 (20)  倉持一輝  疎性モデリングを用いたSgr A*のRsスケール
  •              での撮像シミュレーション
    • 銀河系中心核Sgr A*は、シュバルツシルド半径が全天で最大 (1Rs~10μas)となる超大質量ブラックホール (SMBH)に付随しており、数年後にはサブミリ派VLBI観測網Event Horizon Telescope (EHT)によるブラックホールシャドウの直接撮像が期待されている。この直接撮像を実現するには、星間散乱による電波の散乱を考慮しなければならない。これは我々とSgr A*の間に存在する星間プラズマによるもので、EHTの観測波長帯である1.3 mm帯では約20μas(~2Rs)スケールの構造がぼかされてしまう。
    •  我々は、Sgr A*の理論モデル画像を元にEHTの観測シミュレーションを行い、疑似観測データから『疎性モデリング』とよばれるイメージング法を用いて元の画像の復元を試みた。その際、星間散乱の効果を抑えるために事前にビジビリティ空間上で星間散乱の効果を取り除いた。星間散乱の効果を事前に取り除く事により、疑似観測データから直接復元した画像よりもよりモデル画像に近い天体画像を得る事に成功した。本講演では、今回我々が行ったシミュレーションについて紹介をする。
  • 16:40 (20)  高橋真聡  ブラックホール影と偏光ベクトル
    • ブラックホール影の観測に際して、実際には周辺の降着ガス円盤を観測する事になる(降着円盤イメージの中央部分に影領域が見える=ブラックホール影)。この降着円盤の見え方について考察する。今回は特に、円盤表面で生じた偏光が、ブラックホール時空を通り抜ける際にどのような影響を受けるか議論する。
  • 17:00 (20)  森山小太郎 ブラックホール時空構造の新決定法~落下ガスの
  •              直接撮像データを用いて
    • ブラックホールの時空構造を直接測定する方法を提唱するために、ブラックホールの最内縁安定円軌道半径のすぐ内側から角運動量を持って落下するガスを考える。
    • 落下するガスは光学的に薄く,単一振動数の放射をすると仮定する。遠方の観測者により観測された光は(i) 重力レンズ効果; (ii) ビーミング効果; (iii) 光円軌道半径集光効果; (iv) 重力赤方偏移の4つの相対論的効果を受ける。これらの効果による光のフラックスとガス雲の撮像映像の時間変動について一般相対論的シミュレーションを実行して求めた。その結果から、ガス雲のサイズと運動周期の時間変動からブラックホールの時空構造(計量のg03成分)をそれぞれ独立に求める方法を提唱する。そして、VLBI観測の模擬シミュレーションによって、本手法の実現可能性を検証し、この方法によってどの程度の精度で、時空構造を測定できるかを議論する。
  • 17:20 (10)  小休憩
  • 17:30 (20)  大神隆幸  回転流入・流出するダストによるワームホール
  •              シャドウ
    • 人間が通過可能なワームホールの一つであるエリスワームホール時空に対し、相対論的な連続の方程式およびオイラー方程式を適用することで、ダスト流の軸対称定常解を求めた。また、これらの解を用いてエリスワームホール時空での測地線方程式や輸送方程式を同時に数値的に解くことで、回転流入流出するダスト流の観測イメージを描いた。本発表ではこれらの結果の考察をイメージ図等を用いて報告する。
  • 17:50 (20)  久保智裕  グラバスターの重力レンズ効果
    • ブラックホール疑似天体として考えられたグラバスターとよばれる架空の天体があ
    • る。それは質量をもった薄い球殻でできた天体で、球殻の内側がド・ジッター時空、
    • 外側がシュワルツシルト時空となっている。今回の研究ではグラバスターの周りに球
    • 状の光源天体があると仮定し、それが重力によってどのように歪むのか、数値計算を
    • 行って調べた。また、グラバスターの天体半径が変わることで見られる違いも考えた。
  • 18:10 (20)  南部保貞  ブラックホール時空での波動光学の整備
  •              および応用: 現状と今後
    • ブラックホール時空上での波動光学の定式化についてその現状を報告する
  • 18:30 (30)  嶺重 慎  初日まとめの議論
  • 19:00           初日セッション終了
  • 19:30          懇親会 : 鉄板酒場 壱○弐

10月11日(日)
< VLBI観測網 >

  •  9:00 (40)  藤沢健太  山口干渉計によるブラックホール探査(R)
    • 我々は山口第2アンテナを電波望遠鏡化する計画を進めている。山口第2アンテナと山口32m電波望遠鏡による干渉計(山口干渉計)を構築することを目指している。山口干渉計は、連続波天体に対する感度が高い、利用可能な時間が長い、という特長がある。この特長を活かして銀河系内ブラックホールの探査を行う予定である。
  •  9:40 (20)  木村靖伊奈 高感度VLBIによるSgr A*近傍のブラック
  •              ホールの探査
    • 多くの銀河の中心部には超大質量のブラックホールが存在し、AGN として観測されている。しかしながら、これらのブラックホールの形成過程は未だ明らかにされていない。超大質量ブラックホールが質量を獲得する過程として銀河の衝突合体に伴うブラックホール合体が重要である可能性が指摘されている。この過程が生じる途中ではある銀河の中や近傍に吸収された銀河の中心核が浮遊していることとなり、他の銀河においてはそのような浮遊ブラックホールの候補はすでに発見されている。合体成長によりブラックホールが進化するのであれば、我々の銀河の中心ブラックホールであるSgr A∗ の近傍にも過去に合体吸収された銀河の中心ブラックホールが浮遊している可能性がある。銀河中心付近のコンパクト電波源からこのような性質を示す天体を探査し、研究することでブラックホール同士の合体の証拠となるような天体を発見することが本研究の目的である。
    • 銀河中心のコンパクト電波源5天体に対して高感度VLBIを用いてフリンジ検出を目的とした観測を行い4天体を検出した。この結果と考察およびに今後の観測予定について報告する。
  • 10:00 (40)  新沼浩太郎 日韓VLBI観測網による活動銀河核ジェット
  •              の研究(R)
  • 日韓VLBI観測網(KaVA: KVN and VERA Array)は東アジア地域における初めてのミリ波専用VLBI観測網である。2014年度から共同利用を含めた定常運用を開始している。現在、世界中には多くのVLBI観測網が存在するが、一年を通して定常的な運用を行うことができるのは米国電波天文台(NRAO)のVLBAとKaVAのみである。
  • 立ち上がり始めたばかりであること、またKVN・VERAそれぞれが各々プロジェクトを抱えているためKaVAとしての年間の総運用時間はVLBAに比べて非常に少ない。しかしながらミリ波に特化したVLBI装置がとても身近な東アジアにあるということは電波天文学の裾野を広げる上でも重要な要素であると考える。
  • KaVAのイメージングクオリティは非常に高いことが実証されており(Niinuma+14)、AGNジェットをはじめ、高い解像度で広がった構造まで議論する必要のある研究には強力な装置である。本講演ではこの新しく立ち上がったばかりのVLBIアレイであるKaVAの紹介と併せて、
  • KaVAのAGNサイエンス検討グループが提案中のキーサイエンスプロジェクトについても紹介する。
  • 10:40 (20)  休憩
  • 11:00 (20)  宮崎敦史  KVNによるSgrA*の多周波数観測
  • 11:20 (20)  三好 真  A Proposal Constructing sub-mm/mm
  •              VLBI by Asian/Japanese Power
  • 東アジアの研究機関は自前の230GHz帯受信のできる電波望遠鏡を結構たくさん持
  • っています。その気になればBH撮像に関して世界をリードできるのです。
  • 但し、短基線はないので、作らないといけません。
  • 11:40 (60)  昼休み

< BHガス流 >

  • 12:40 (40)  嶺重 慎  ブラックホール降着流と噴出流(R)
    • ブラックホール降着流と噴出流に関する現在の理解を (1) シミュレーション研究および (2) X線観測研究に分けて、かいつまんでお話します。前者は、最近のRHD/RMHDシミュレーションの結果を、アウトフローおよびBZ過程をキーワードに紹介します。後者は、鉄ラインのX線観測がキーワードで、何が分かって何が懸案事項か、ASTRO-Hで何が分かるか、をまとめます。
  • 13:20 (20)  野田宗佑   MHD flow上の流体ブラックホール
    • Flatな時空中におけるMHD flow上の流体ブラックホールについて議論する。
    • 背景時空がflatであっても、磁場が無い場合の渦無し流体上の音波方程式はacoustic metricと呼ばれる擬似的なmetric上のKlein Gordon方程式の形にまとまることが知られている。
    • またbathtub modelと呼ばれるバックグラウンド流を選ぶとacoustic metricはKerr metricのような形をとる。
    • この場合、定性的にはバックグラウンド流の音速を超える面(音速面)と流体の回転方向の速度が音速を超える面がそれぞれホライズンとエルゴ領域に対応する。このような、流体上の音波に対するブラックホール的な構造を流体ブラックホールという。
    • 本発表ではまず、磁場が無い場合の流体ブラックホールについてのレビューをし、次にbathtub modelをMHDに拡張したmodelを紹介する。最後にMHDの磁気音波、アルフベン波に関するacoustic metricが定義されるかを議論する予定である。
  • 13:40 (20)  黒田健太  ブラックホール近傍からの高エネルギー輻射
    • ブラックホールは、自身が輻射を行うことはなく、また、一度ホライズンを横切った光は二度とブラックホール外に脱出することはできない。そのためブラックホールを電磁波で直接観測することは不可能である。しかし、ブラックホールのごく近傍からの輻射は観測可能である。例えば、ブラックホールを中心に降着円盤を形成しているシステムを考える。降着円盤が標準円盤であれば黒体輻射していることが期待できる。さらに、この光は周囲に存在する高温ガスによって非常に高エネルギーになることが考えられる。
    •  本発表では、その高温ガス領域をMHD降着流としてブラックホール近傍から放出される高エネルギー輻射について議論する。
  • 14:00 (40)  髙橋真聡  総括の議論
  • 14:40          閉会(→ エクスカーション)