どうなる?これからの天文学研究環境のゆくえ(第1回)

「天文学研究者人口調査」

天文教育委員会

沢 武文
<教育委員会委員長,愛知教育大学 〒448-8542 刈谷市井ヶ谷町広沢1>
e-mail: tsawa@auecc.aichi-edu.ac.jp



注:この文は,天文月報2000年1月号 (Vol.93 No.1 p.29-36)に掲載されたものと同じ内容です.


概要

  大学院重点化により,大学院生の定員が大幅に増加し,大学院における 研究・教育・就職環境が大きく変化している.特に,大学院生の増加に よって,ODが急増するのは避けられない.このような観点から,教育委 員会では,天文学研究者全体の年齢分布や大学院生と研究ポストのバラ ンスを考えるための基礎的なデータの収集とそれらのデータの情報公開 を目的とした,天文学研究者人口調査を行なった.

1.はじめに

  最近の大学院重点化による大学院生の定員の急速な増加に伴い,天文 学を研究する大学院生は,重点化以前に比べると,2倍増近くも増えてい る.このように,大学院における研究・教育や就職の環境が大きく変化 しているが,現実の大学院では,この変化にほとんど対応していないと いうのが実情である.大学院重点化に伴い,学術振興会などの研究員の 定員も増えてはいるが,これらの研究員の任期は数年であり,今現在の 一時的なバッファーの役割を果たすにすぎず,これから数年の間に,研 究者になれない大学院修了者(いわゆるOD)が急増するのは避けられな い状況にある.

 しかし,実際に天文学の研究ポストにどのくらいの人がつき,どのよ うな環境で研究を行っているのか,研究員は何人いてどの年齢層から構 成されているのか,ODや大学院生はどのくらいいるのかといった基礎的 なデータは全く無いというのが現状である.

 このような時期に,日本学術会議『女性科学者の環境改善の推進』特 別委員会(池内了氏が幹事)から,天文学会で女性天文学者をめぐる諸 問題についての調査を行って欲しいとの要請があり,この調査を教育委 員会が行うことが1998年10月の理事会で承認された.

 これらのことを踏まえ,教育委員会では,女性研究者の調査のみにと どまらず,天文学研究者全体の年齢分布や,大学院生と研究ポストのバ ランスを考えるための基礎的なデータの収集及びこれらのデータの情報 公開を目的とした,天文学研究者人口調査を行うことにした.

2.調査内容と調査対象,方法

 調査内容は(1)氏名,(2)所属,(3)身分,(4)研究分野・手法, (5)年齢,(6)性別,(7)会員種別,(8)学位,(9)最近の発表の 有無,(10)備考の10項目である.なお,この調査を実施するにあたり, いくつかの項目に対してプライバシー保護の問題についての指摘が数多 くあり,データの取り扱いや結果の公表の方法を慎重にした.

 天文学研究者人口調査は,現在天文学を研究している人,現在大学院 生として天文学を学んでいる人を対象にし,主な研究機関や大学の研究 室等に電子メールで直接依頼するという方法によって行われた.またこ の調査を,日本天文学会および理論天文学懇談会のメーリングリストに も流し,なるべく多くの研究者の目に触れるようにして,天文学会の会 員,非会員を問わず,できるだけ多くの人から回答を得るようにした. なお,この調査にあたり,天文天体物理若手の会および院生会の多大な 協力を得たことを,この場をかりてお礼申し上げたい.

3.調査率と追加調査

 今回の調査で回答を得た総数は,1999年10月12日現在で 1201名に達している.しかし,より正確なデータが必要な 人口調査においては,これらの回答でもまだ不十分であっ た.というのは,国立天文台や大学のスタッフで,回答の ない人も多数いたからである.そこで,より正確なデータ とするために,回答のなかった人のうち,以下の範囲で名 簿による追加調査を行った.具体的には,研究分野が地球 物理学関係の人を除く国立天文台のスタッフ(教授,助教 授,助手),「宇宙を学べる大学(1998年版;沢作成)」 に示されているスタッフのうち正会員の人,その他大学関 係で沢が気付いた人を,「1998年度国立天文台職員一覧 (国立天文台)」,「1998年全国大学職員録(廣潤社)」, 「平成10年度日本天文学会名簿 (日本天文学会)」を用い て,わかる範囲でデータを集めた.これらの名簿によって, 氏名,所属,年齢(正確には生まれた年),学位,会員種別 の大部分のデータが得られた.ただし名簿には生まれた年が 標記されているだけであるので,早生まれの人(1月1日か ら4月1日の間に生まれた人)については年齢が1歳多くなっ てしまうが,この点については観測誤差と解釈し,機械的に 年齢を割り出した.

 最終的に得られた調査総数は1999年10月12日現在で1316名 (うち追加調査115名)である.会員別の調査数と調査率を 表1に示す.なお,ここでは正会員と学生正会員を区別し, 学生正会員を単に学生会員と表すことにする.


表1.会員別調査数と調査率.( )内の数は追加調査の数を表す.

会員種別 会員数 調査数 回答率 ( % )
正会員 1072 577 ( 76) 53.8 (7.1)
学生会員 276 190 ( -) 68.8 ( -)
準会員 1422 127 ( 33) 8.9 (2.3)
非会員 - 415 ( -) - ( -)
不明 - 7 ( 6) - ( -)
合  計 2770 1316 (115) - ( -)


 正会員の調査率は過半数をようやく超えた程度であった.し かし以下の考察から,思ったより低い数字にもかかわらず,ア カデミックポジション(ここでは国立研究所および大学の教授, 助教授,講師,助手の職種を総称してこのように標記する)に ついているスタッフの大部分のデータが集まったとみることが できる.その理由の一つは,約20年前(つまりアンケートを実 施した教育委員のいく人かが大学院生の時代)には,天文天体 物理若手の会の事務局および院生会が,全国の若手の天文学研 究者数をほぼ正確に把握しており,その時の人数とメンバーか ら考えて,今も天文学の研究を行っている人は,大部分がアン ケートに回答したと考えられるからである.

 では,回答しなかった正会員の半数はどのような人たちであ ろうか.これは,学会名簿で正会員として表記されている人(学 会の名簿では一般の正会員と学生正会員を区別していない)とし て標記されている人の所属の分布を調べ,学生会員数を差し引く ことで,ある程度推測することができる.ちなみに,学会名簿の 「あ」〜「こ」までの名前の学生正会員を含む正会員456名(全 体の33%)の所属の分布を調べた.この中に,学生会員276名 の33%,すなわち92名が含まれていると考えることができるの で,この数を大学関係者から差し引いて,正会員の所属の分布 とした.これらの分布を,学生会員補正前の値も含めて表2に 示す.


表2.正会員の所属の内訳. 補正前は名簿で調査した値, 補正後は学生会員を差し引いた値を示す. 平成10年度の名簿より作成.


補正前 補正後
所  属 人数 割合(%) 人数 割合(%)
大学関係 235 51.4  143 39.3 
国立天文台 54 11.8  54 14.8 
宇宙研 13 2.9   13 3.6  
他の研究所 29 6.4   29 8.0  
公共天文台等 18 4.0   18 4.9  
学校間系 29 6.4   29 8.0  
一般企業 28 6.1   28 7.7  
白紙 35 7.7   35 9.6  
その他 7 1.5   7 1.9  
在外 8 1.8   8 2.2  


 表2の補正後の所属のうち所属が白紙である人が10%近くもい るが,これらの人の大部分はOB(すでに定年で退官した人)であ る.今回の調査ではOBの回答は数名しかいなかった.また,後 に示す人口分布から,ODの回答数も少ないと思われることから, 正会員のODで回答がなかった人もいると思われる.その他未回 答者には,境界領域の研究者,アマチュア天文家などが含まれ ているのであろう.以上の理由から,「天文学のアカデミック ポジションについている人」の人数は,回答者の人数に近いと 考えられる.

 一方,学生会員の回答率については70%弱であり,当初予想し ていた値より低かった.所属が学生で,回答を正会員とした人 も多数いたが,学会事務に問い合わせて訂正した結果,これに よる誤差はほとんどなくなったものと思われる.まだ未回答の 研究室グループが若干あるものと予想されるが,未回答のODも かなりいるのではないかと推測される.しかしこの件について は詳しい調査を行っていないため,あまりはっきりしたことは 言えない.

4.解析結果

 人口調査の解析結果を表3〜5,図1,2に示す.表3および図1は 職・身分別の人口分布を,表4は職・身分別の男女数および会員 数を,表5と図2は職・身分の内訳を示したものである.

 得られたデータについて,調査率が必ずしも十分でないこと や,境界領域等の調査範囲の不明確さのため,はっきりした結 論を得ることは難しいが,これらの結果から,次のようなこと が言えそうである.


表3.職・身分別の人口分布. ( )内の数は追加調査の内数を表す.記号は,M=修士,D=博士,OD=オーバードクター, PD=研究員,A=助手,L+AP=講師+助教授,P=教授, RE=公共天文台や科学館の研究員・学芸員,ED=小・中・高・高専の教員,OT=その他 を表す.

年齢 人口 M D OD PD A L+AP P RS ED OT
70 3 ( -) - - - - - ( -) - ( -) - ( -) 2 - 1 (-)
69 - ( -) - - - - - ( -) - ( -) - ( -) - - - (-)
68 1 ( 1) - - - - - ( -) - ( -) 1 ( 1) - - - (-)
67 4 ( 1) - - - - - ( -) - ( -) - ( -) 1 - 3 (1)
66 1 ( -) - - - - - ( -) - ( -) - ( -) - - 1 (-)
65 3 ( -) - - - - - ( -) - ( -) 3 ( -) - - - (-)
64 4 ( -) 1 - - - - ( -) - ( -) 2 ( -) - 1 - (-)
63 4 ( 2) - - - - - ( -) - ( -) 2 ( 2) 1 - 1 (-)
62 5 ( 1) - - - - - ( -) - ( -) 5 ( 1) - - - (-)
61 9 ( 2) - - - - - ( -) 1 ( 1) 5 ( -) - - 3 (1)
60 12 ( 4) - - - - - ( -) 2 ( 2) 6 ( 1) - - 4 (1)
59 16 ( 4) - - - - - ( -) 6 ( 2) 9 ( 2) - - 1 (-)
58 15 ( 5) - - - - 2 ( 1) 5 ( 2) 8 ( 2) - - - (-)
57 11 ( 4) - - - - - ( -) 5 ( 3) 5 ( 1) 1 - - (-)
56 28 ( 6) - - - - 5 ( 2) 6 ( 2) 16 ( 2) - - 1 (-)
55 13 ( 5) - - - - 3 ( 3) - ( -) 9 ( 2) - - 1 (-)
54 15 ( 5) - - - - 3 ( 1) 3 ( 1) 7 ( 3) 2 - - (-)
53 15 ( 2) - - - - 2 ( 1) 5 ( -) 7 ( -) - - 1 (1)
52 18 ( 5) - - - - 4 ( 2) 4 ( -) 9 ( 3) 1 - - (-)
51 22 ( 4) - - - - 4 ( 1) 3 ( 1) 13 ( 2) 1 1 - (-)
50 18 ( 5) - - - - 4 ( 3) 4 ( 1) 7 ( 1) 1 1 1 (-)
49 15 ( 3) - - - - 2 ( 1) 4 ( 2) 7 ( -) - - 2 (-)
48 12 ( 2) - - - - 3 ( 2) 3 ( -) 5 ( -) 1 - - (-)
47 23 ( 6) - - - - 5 ( 1) 7 ( 3) 8 ( 2) 1 - 2 (-)
46 18 ( 1) - - - - 3 ( 1) 6 ( -) 6 ( -) 1 1 1 (-)
45 16 ( 5) 1 - - - 4 ( 3) 5 ( 1) 1 ( 1) 1 3 1 (-)
44 18 ( 1) - - - - 4 ( -) 5 ( 1) 5 ( -) 2 - 2 (-)
43 14 ( 1) - - - - 1 ( -) 8 ( 1) - ( -) - 2 3 (-)
42 18 ( 3) - - - - 4 ( 2) 6 ( 1) 1 ( -) 2 - 5 (-)
41 18 ( 1) - - - - - ( -) 13 ( 1) 2 ( -) 1 1 1 (-)
40 28 ( 5) - - - - 10 ( -) 11 ( 5) 1 ( -) 2 - 4 (-)
39 20 ( 6) - - - - 3 ( 3) 13 ( 2) 1 ( 1) - 2 1 (-)
38 22 ( 2) - 1 - - 7 ( 1) 6 ( 1) 2 ( -) 4 - 2 (-)
37 26 ( 1) - - - - 8 ( 1) 9 ( -) - ( -) 5 - 4 (-)
36 25 ( 1) - 2 - - 9 ( 1) 7 ( -) - ( -) 1 3 3 (-)
35 23 ( 2) - - 1 1 7 ( 1) 5 ( 1) - ( -) 5 - 4 (-)
34 30 ( 2) - 1 1 2 12 ( 2) 6 ( -) - ( -) 4 1 3 (-)
33 34 ( 1) 1 - - 6 14 ( 1) 2 ( -) - ( -) 4 1 6 (-)
32 34 ( 3) - 2 2 5 13 ( 3) 4 ( -) - ( -) 3 1 4 (-)
31 40 ( 4) - - 6 9 15 ( 4) 3 ( -) - ( -) 3 - 4 (-)
30 36 ( 1) - 3 2 12 11 ( 1) 1 ( -) - ( -) 2 - 5 (-)
29 51 ( 2) 1 5 12 18 9 ( 1) 1 ( 1) - ( -) 4 - 1 (-)
28 54 ( 1) 1 15 10 23 4 ( 1) - ( -) - ( -) - - 1 (-)
27 57 ( -) 1 35 4 10 1 ( -) - ( -) - ( -) 4 1 1 (-)
26 53 ( -) 10 41 - - - ( -) - ( -) - ( -) 2 - - (-)
25 77 ( -) 18 55 - - - ( -) - ( -) - ( -) 2 - 2 (-)
24 93 ( -) 58 33 - - 1 ( -) - ( -) - ( -) 1 - - (-)
23 113 ( -) 112 - - - - ( -) - ( -) - ( -) - - 1 (-)
22 91 ( -) 91 - - - - ( -) - ( -) - ( -) - - - (-)
不明 40 ( 5) 7 1 2 5 7 ( 4) 5 ( -) 5 ( -) - 1 7 (1)
合計 1316 (115) 302 194 40 91 184 (48) 174 (35) 158 (27) 65 20 88 (5)


図1.職・身分別の人口分布. (ここをクリックすると図が大きくなります)


表4.職・身分別の男女数と会員数. ( )内の数は追加調査の内数を表す.記号は,M=修士,D=博士,OD=オーバードクター, PD=研究員,A=助手,L+AP=講師+助教授,P=教授, RE=公共天文台や科学館の研究員・学芸員,ED=小・中・高・高専の教員,OT=その他 を表す.

職・身分 男性 女性 正会員 学生会員 準会員 非会員 不明 合計
M1 136 ( -) 30(-) - ( -) 6 1 ( -) 159 - (-) 166 ( -)
M2 121 ( -) 15(-) 1 ( -) 36 1 ( -) 97 1 (-) 136 ( -)
D1 56 ( -) 11(-) - ( -) 40 1 ( -) 26 - (-) 67 ( -)
D2 48 ( -) 13(-) 1 ( -) 39 - ( -) 21 - (-) 61 ( -)
D3 61 ( -) 5(-) - ( -) 47 1 ( -) 18 - (-) 66 ( -)
OD 33 ( -) 7(-) 10 ( -) 18 2 ( -) 10 - (-) 40 ( -)
PD 81 ( -) 10(-) 69 ( -) 3 3 ( -) 16 - (-) 91 ( -)
A  172( 46) 12(2) 124( 23) - 42(21) 14 4 (4) 184( 48)
L+AP 170( 35) 4(-) 141( 26) - 19 ( 8) 13 1 (1) 174( 35)
P  157( 27) 1(-) 137( 23) - 9 ( 3) 11 1 (1) 158( 27)
RS 56 ( -) 9(-) 34 ( -) - 19 ( -) 12 - (-) 65 ( -)
ED 20 ( -) -(-) 9 ( -) - 9 ( -) 2 - (-) 20 ( -)
OT 81 ( 5) 7(-) 51 ( 4) 1 20 ( 1) 16 - (-) 88 ( 5)
合 計 1192(113) 124(2) 577( 76) 190 127(33) 415 7 (6) 1316(115)


表5.職・身分の内訳.( )内の数は追加調査の内数を表す.記号は,M=修士,D=博士,OD=オーバードクター, PD=研究員,A=助手,L+AP=講師+助教授,P=教授, RE=公共天文台や科学館の研究員・学芸員,ED=小・中・高・高専の教員,OT=その他 を表す.


内訳


職・身分
国立研究所 大学・大学院 施設学校

合 計


 



 



 



 







 











 



 



 







 
 


 



 



M1 - ( -) 5 - 118 ( -) 23 (-) 10 (-) 1 (-) 7 (-) - (-) 2 (-) - - - - - (-) 166 ( -)
M2 - ( -) 4 - 95 ( -) 20 (-) 2 (-) 6 (-) 8 (-) - (-) 1 (-) - - - - - (-) 136 ( -)
D1 - ( -) 1 - 61 ( -) 4 (-) 1 (-) - (-) - (-) - (-) - (-) - - - - - (-) 67 ( -)
D2 - ( -) 4 - 51 ( -) 3 (-) - (-) 2 (-) - (-) - (-) 1 (-) - - - - - (-) 61 ( -)
D3 - ( -) 3 - 54 ( -) 7 (-) - (-) 1 (-) - (-) - (-) 1 (-) - - - - - (-) 66 ( -)
OD - ( -) 2 - 29 ( -) 3 (-) - (-) 2 (-) 1 (-) - (-) 3 (-) - - - - - (-) 40 ( -)
PD 23 ( -) 9 - 30 ( -) - (-) - (-) - (-) - (-) 11 (-) 2 (-) - - - - 16 (-) 91 ( -)
91(40) 16 4 52 ( 7) 2 (-) 5 (1) 5 (-) 2 (-) 2 (-) 5 (-) - - - - - (-) 184 (48)
L+AP 42(22) 13 1 51 ( 7) 3 (-) 12 (2) 3 (-) 16 (1) 7 (1) 23 (2) - - - - 2 (-) 174 (35)
27 ( 8) 13 2 64 ( 9) 3 (1) 7 (-) 5 (1) 19 (7) 8 (-) 10 (1) - - - - - (-) 158 (27)
RS - ( -) - - - ( -) - (-) - (-) - (-) - (-) - (-) - (-) 37 28 - - - (-) 65 ( -)
ED - ( -) - - - ( -) - (-) - (-) - (-) - (-) - (-) - (-) - - 10 10 - (-) 20 ( -)
OT 15 ( 1) - - 17 ( 2) 3 (1) - (-) - (-) 1 (-) 1 (-) 4 (-) - - - - 48 (1) 88 ( 5)
 合 計 198(71) 70 7 622 (25) 71 (2) 37 (3) 25 (1) 54 (8) 29 (1) 52 (3) 37 28 10 10 66 (1) 1316 (115)


図2.職・身分別人口とその内訳. (ここをクリックすると図が大きくなります)


4.1.天文学研究者の年齢分布

 表3および図1から,以下のことがわかる.最も若い層であ る22〜35歳にかけては,1学年あたりの人口は110名程度から 20名程度まで,年齢とともにほぼ指数関数的に減少している. この間の職・身分は,27歳までは修士(M)と博士(D)の大 学院生が占め,27歳頃から研究員(PD)とオーバードク ター(OD)が増加し,助手(A)も増えてくる.しかしPDや ODは30歳を過ぎると減少し,36歳以上は0となっている.こ れは,研究員の年齢制限が35歳までとなっているためと, 高年齢のODの回答がなかったためであろう.PDのピーク が30歳前にあることから,大部分のPDは大学院を修了し た直後に採用され,数年の任期の後,新しい人と入れ替 わっていると推測される.

 35歳から60歳の間は,年齢によってばらつきはあるもの の,1学年あたりの人口は18名とほぼ一定であり,このう ち教授(P),助教授+講師(AP+L),助手(A)を合わせ た,いわゆるアカデミックポジションの数はほぼ15名/学 年である.60歳を過ぎるとこのアカデミックポジション の数は減少し,65歳を過ぎるとほぼ0となる.これは国立 天文台の定年が60歳であること,大部分の国立大学の定 年が63歳と65歳になっているためである.

4.2.職・身分別の人口とその内訳

 表4および表5,図2の分布からは,調査率を補正して 考えると,以下のことが言えそうである.

(1) 修士の回答数は表4より,M1が166人,M2は136人で あり,会員より非会員の方が圧倒的に多い.このため,実 際の人数を割り出すことは難しい.仮に回答率が学生会員 の回答率とほぼ同じで70%だとすれば,1学年あたりの修士 課程の院生数は(166+136)/2/0.7=216人/学年,もう少し 回答率が良くて,回答率が80%だとすれば189人/学年となる.

(2) もし,博士課程の院生が全員天文学会の会員で,回 答率が学生会員の回答率に近ければ,1学年当たりの博士 課程の院生数は(67+61+66)/3/0.7=92人/学年となる.学 生会員の未回答者には境界領域の分野の人の他,ODも含ま れると考えられる.そこで,境界領域を除いた博士課程1年 から3年までの回答率はもっと高く,たとえば80%であると 考えると,博士課程1学年当たりの人数は81人/学年となる.

(3) ODとPDの回答数は表4より,40+91=131人である.回 答率がOD+PDと博士課程とでは同じであると仮定すれば, OD+PDの数は博士課程2学年分に相当する.ただし,ODの 年齢分布をみると,年齢とともに急激に減少しているた め,ODの回答率が年齢とともに低下しているのではない かと予想されるが,今回の調査ではこのことについて確 認することは難しい.なお,国立大学の大学院重点化に よる博士課程の増員の影響はまだ定常状態に達していな いと考えられるため,PD+ODの人数は今後数年間は増加す るものと予想される.

(4) 「調査率と追加調査」の節で述べたように,アカ デミックポジションについている研究者の人数と年齢分 布は,表3および図1に示されたデータでほぼ近似できる. このアカデミックポジションのポスト数は,1学年あたり 15程度であり,30歳から60歳の各年齢層にほぼまんべん なく配分されている.

(5) 表5および図2から,アカデミックポジションは国 立天文台が1/3,大学の理学部・理学研究科が1/3,その 他が1/3となっている.最近の国立天文台などでのポスト 増や,私学のポストにつく人が増えていることから,全 体としてのアカデミックポジションのポストは増えてい るものと思われる.アカデミックポジションの人口分布 には年齢による差がほとんど見られないことから,増え たポストは各年齢にまんべんなく分配されているものと 思われる.

5.就職の競争率

 これまでの議論から,定年のために生ずるポストの 数は,1年あたり15程度である.以下の試算は,この空 きポストを15/年として計算したものである.

 アカデミックポジションへの就職の平均競争率は,1年 あたりに空くポストの数を就職を希望する人数で割った ものである.ここではポストの絶対数が増えた時期は終 わったと考える.応募数は,博士課程の新修了者だけで はなく,ODやPDも含めた数である.博士課程の学年に換 算して約3学年分が,空いたポストに就職を希望すると 考えてよく,平均の競争率は,

 博士課程3学年分/1年に空くポストの数 =(80×3)/15〜16倍

となる.PDの数や大学院の学生数はまだ定常状態には なっていないと考えられるため,来年度には,今年度 就職できなかった人数と来年度博士課程修了者を合わ せた数が就職希望数となる.したがって来年度の平均 競争率は(80×4-15)/15=20倍になると推定される.

 これはあくまで1年間単位でみた平均の競争率である. 個別の公募では,原則として定員は1名である.したがっ て募集分野がどの分野にも当てはまるような広範囲なも のであれば,競争率はもっと高くなると考えられる.

 なお,表3および図1の人口分布から,公共天文台や科 学館の研究員・学芸員(RS)に30代の若手がかなり就職 していることがわかる.ちなみに,25歳から40歳の間で は3名/年に達しており,天文学研究者としての貴重な就 職先となっていることを示している.

6.女性研究者

 表4の職・身分別男女の割合から,修士課程,博士課 程,OD,PDおよびアカデミックポジションの女性の占 める割合を求めてみると,表6のようになる.これらよ り,以下のことがわかる.


表6.職・身分に対する女性の割合.記号は,M=修士,D=博士,OD=オーバードクター, PD=研究員,A=助手,L+AP=講師+助教授,P=教授を表す.

職・身分 総数 女性 割合 (%)
202 名 45 名 22.2 
194 名 29 名 15.1 
OD 40 名 7 名 17.5 
PD 91 名 10 名 11.0 
184 名 12 名 6.5 
AP 173 名 4 名 2.3 
158 名 1 名 0.6 


(1) 表4より,女性の調査数は,修士課程45人,博士 課程29人,OD+PD17人,助手から教授まで17人,総数 は124人である.

(2) 表6より,女性のアカデミックポジションに占め る割合は,助手6.5%, 助教授+講師2.3%,教授0.6%であ り,上位ポジションほど女性の割合が減少するという 傾向がみられる.これは,文系,理系を通してみた各 分野での女性研究者のおかれた状況と同じ傾向であり, また世界各国に共通した傾向でもある.

(3) 絶対数が少ないため,ややばらつきはあるもの の,修士から博士課程への進学で女性の割合が若干減 少している.なお,ODの女性の割合17%に対し,PDの 割合は11%と少ない.アカデミックポジションの女性 の割合も考慮すると,女性の割合は,大学院生からPDも 含め,上位にいくほど減少傾向にあることがわかる. 一般論として「女性はPDとして採用されにくい」, 「上位のアカデミックポジションにつきにくい」と いった傾向が見られる.

(4) 上位ポストにいる女性の割合は非常に少ない. これは理系のみならず,どの職業にも共通する特徴で ある.この理由として考えられるのは,専門職に進む 女性が極端に少なかったこと,一般に女性は就職や昇 進で不利な場合があったことなどが言われている.天 文学の分野でも上位ポストにいる女性の割合は非常に 低く,大学院生とPDの間でも差がみられる.しかし女 性の絶対数が少なくばらつきも大きいため,これらの 数値だけから,就職やPD採用のときに女性差別がある のかどうかについての結論を出すのは,現時点では難 しい.

7.終わりに

 人口調査の結果の図表は

 http://phyas.aichi-edu.ac.jp/~sawa/jinko.html

でも公開しているので,こちらも参照されたい.図は カラーで表示してあるので,ここに示したものよりは 見やすいはずである.

 なお,今回の調査では学位や研究発表の有無も回答 してもらったが,これらは主に女性研究者のアンケー ト調査のための基礎資料として用いるのが目的であっ たことと,プライバシー保護の問題もあるので,未公 開としたことをご理解いただきたい.ただし,研究分 野・手法についてはまだ解析していないため,今回は 公表できなかった.いずれ機会をみて公表したいと考 えている.



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