Program of BHmag2015

第8回ブラックホール磁気圏研究会@広島大学 
印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

HOME > Program

Program

BH-shadow_Obs.png

 by M. Miyoshi

講演プログラム <案>

時 間 氏 名 タイトル



1日目
(3月2日/月)
   
     
12:30 --    受け付け
     
13:00 (40+10) 小嶌 康史 ブラックホール磁気圏の回転駆動による電流と電荷の分布
     
13:50 (40+10) 加藤 祐悟 散逸を含むパルサー磁気圏モデルの作成と電気伝導度依存性
     
14:40 (30)   休 憩
     
15:10 (60+10) 広谷 幸一 High Enegy Emission from Pulsar Magnetospheres
     
16:20 (40+10)  浅野 剛士 ブラックホール磁気圏におけるPenrose Comton 散乱過程
     
17:10 --    休 憩 / 移 動
     
18:00 --    懇 親 会
     
     
2日目
(3月3日/火)
   
     
09:00 (40+10) 福江  純
エディントン限界を再考する
     
09:50 (40+10) 高橋 真聡
Negative Energy MHD Inflows と磁場形状
     
10:40 (20)   休 憩
     
11:00 (40+10) 斉田 浩見 BHの直接観測の理論整備
     
11:50 (40+10) 伊豆丸  翔 ブラックホール近傍での磁気流体波の伝播
     
12:40 (60)    昼 食(お弁当)
     
13:40 (50+10) 野田 宗佑 Kerr時空上の波動光学とブラックホールシャドウ
     
14:40 (40+10) 中尾 憲一
無衝突粒子から成る無限に薄い球殻の相対論的衝突過程について
     
15:30 (30)   休 憩
     
16:00 (50+10) 桝田 篤樹 強い重力レンズ効果による光渦の生成
     
17:00

     
     
3日目
(3月4日/水)
   
     
09:00 (40+10)  西山 正吾 近赤外線による銀河系中心ブラックホール近傍の観測
     
09:50 (40+10) 川島 朋尚 ガス雲の通過が銀河中心ブラックホール高温降着流に与える影響
     
10:40 (20)   休 憩
     
11:00 (40+10) 小出 眞路 ブラックホールが引き起こす磁気リコネクションの数値シミュレーション
     
11:50 (30+10) 黒田 健太 ブラックホール近傍からの高エネルギー輻射について
     
12:30 (60)    昼 食(お弁当)
     
13:30 (40+10) 森山 小太郎 ブラックホールスピンの新測定法:
ブラックホールに落下するガスリングの光度特性
     
14:20 (40+10) 木坂 将大
ショートガンマ線バーストの光度曲線
     
15:10 (30)   休 憩
     
15:40 (10) 三好/高橋 JCMT実験を軸に東アジアでサブミリVLBIを推進!
     
15:50 (70) 小嶌/高橋
今後の発展(研究会・総括)/ 観測との連携、など
     
17:00
 解 散
     

 
     
     

   



▲ ページトップへ


広谷 幸一(ASIAA/TIARA)

『 High Enegy Emission from Pulsar Magnetospheres 』

We investigate the particle accelerator that arises in a rotating neutron-star magnetosphere. Simultaneously solving the Poisson equation for the electro-static potential, the Boltzmann equations for relativistic electrons and positrons, and the radiative transfer equation, we demonstrate that the electric field is substantially screened along the magnetic field lines by pairs that are created and separated within the accelerator. As a result, the magnetic-field-aligned electric field is localized in higher altitudes near the light cylinder and efficiently accelerates the positrons created in the lower altitudes outward but does not accelerate the electrons inward. The resulting photon flux becomes predominantly outward, leading to typical double-peak light curves, which are commonly observed from many high-energy pulsars.

▲ ページトップへ


高橋 真聡(愛教大)

『 Negative Energy MHD Inflows と磁場形状 』

活動銀河核やガンマ線バースト現象などにおいて観測されるジェット現状のエネルギー源としてブラックホールの回転エネルギーを考える。この回転エネルギーは、電磁気的機構によりブラックホールの外部に抽出可能である(Blandford-Znajek過程)。しかしながら、この機構(磁場が強い極限)のみでは相対論的速度にまで加速されたプラズマを含むジェット現状を説明できない。そこで磁気流体近似の取り扱いに拡張し、「負エネルギーをもつ磁気降着流」としての回転エネルギー抽出機構について議論する(Takahashi et al 1990)。ところで、この負エネルギー降着流のためには“アルフェン点”がエルゴ球の内部に位置しなければならない。そのためには、磁気流体流についての角運動量にある制限が課せられる事になる。ブラックホール磁気圏として、どの領域において負エネルギー降着流(=ブラックホールからのエネルギー抽出)が可能となるかを考えるとき、磁気圏の磁場分布に加えて、角運動量分布が重要となる事が理解できる。本講演では、ブラックホールの回転エネルギーをエネルギー源とするジェット現象のために、どのような角運動量分布がどのようなエネルギー輸送を導きうるかについて議論する。

▲ ページトップへ


小嶌 康史(広島大)

『 ブラックホール磁気圏の回転駆動による電流と電荷の分布 』

中心ブラックホールの回転エネルギーの電磁的抽出過程(Blandford-Znajek 過程)を考える。これまで多くの理論研究がなされてきたが、数値シミュレーションを含め、磁気圏の研究ではForce-free近似や理想MHD近似が用いられてきた。一方、その破綻も論じられている。

本講演では、Blandford-Znajek 過程において重要となる、ブラックホール表面近くでの起電力とトロイダル磁場が如何に生成されるかを電荷が正負からなる二流体のプラズマの軸対称定常流を考えることにより検討した。ブラックホールを貫く、遠方では動経的な形状となる磁場(スプリットモノポール)を仮定し、外側の境界で起電力とトロイダル磁場は無いとする。
もし、Force-free近似と理想MHD近似が至る所で成立するとするば、電流関数と電気ポテンシャルは磁力線に沿って一定であるので、ブラックホール表面でも起電力とトロイダル磁場は生成されない。
また、ブラックホールに自転がない(Schwarzschild)場合もそれらを生じることなく、落下できる。
ブラックホールの自転がある(Kerr)場合にはエルゴ領域内では、必然的に電荷の偏りと電流が生じる必要があることがわかった。その結果、電磁場のエネルギー流(ポインティングフラックス)が生成されることがわかる。モデルの概要と結果の一部を紹介する予定である。

▲ ページトップへ


斉田 浩見(大同大)

『 BHの直接観測の理論整備 』

ブラックホールを見たい。
視覚的な直観に訴える観測は,ブラックホールシャドウの撮像であろう。しかし,一般相対論の理論的観点からは,BHシャドウがどんなにクリアに撮像で きても,それはBH存在の相対論的に直接的な証拠にはならな い。BHシャドウの撮像が相対論的な意味で直接的に示すことは,光の不安定円軌道の 存在であり,BH地平面の存在ではない。そこで次の2つの問題を考える。

(A) BHシャドウのクリアな撮像は,どの程度BH存在の証拠になりえるか?

(B) 『BH直接観測』とは,どう定義すべきか?(何をもって『BH存在が確かだ』 と言えるか?)

今回の講演では,次の2点を報告する。

問題(A)について: ポリトロープのコンパクト球であれば,シャドウ撮像でBH の存在が言える。他の場合は今後の研究が必要である。

問題(B)について: BH時空の一意性定理に基づいて『BH直接観測』の意味を定 義する。それは,『相対論的効果の測定を通して,質量 M と自転の角運動量 J を測るこ と』である。さらに,強い重力レンズ効果を利用し,一つの望遠鏡で可能な(と思われる) M と J の測定原理を提案し,そのための理論計算の進行状況を報告する。

▲ ページトップへ


川島 朋尚(国立天文台)

『 ガス雲の通過が銀河中心ブラックホール高温降着流に与える影響 』

G2が銀河中心に接近し近点を通過していることが報告されているが、いまだG2の通過が原因と考えられる有意な増光は確認されていない。現在まで増光が起きていない原因を探り、また今後増光が起きるかを予想するためには、G2の通過が銀河中心巨大ブラックホールへの高温降着流に与える影響を明らかにする必要がある。

G2の正体については議論が続いているが、ここではガス雲を仮定する。ガス雲では輻射冷却の効果が重要であり、降着流のダイナミクスを解くためには磁場を扱う必要がある。しかしこれまでに、輻射冷却と磁場を同時に解いたG2と高温降着流のシミュレーションは実施されてこなかった。そこで、われわれはガス雲の通過を伴う高温降着流の輻射冷却を考慮した3次元MHDシミュレーションを世界で初めて実施した。その結果、ガス雲の近点通過時刻から5-10年かけて磁場が増幅することがわかった。本発表では現在まで電波やX線で増光していない理由や今後予想されるの増光についても議論する。

▲ ページトップへ


西山 正吾(宮教大)

『 近赤外線による銀河系中心ブラックホール近傍の観測 』

銀河系の中心には約400万太陽質量の巨大ブラックホール候補、Sgr A*がある。Sgr A*近傍の星を観測することで、ブラックホール近傍の時空についての研究ができると期待されている。また最近、Sgr A*近傍を通過するガスの塊が発見された。これらの現象についての観測状況や将来展望についてお話ししたい。

▲ ページトップへ


木坂 将太(高エネ研)

『 ショートガンマ線バーストの光度曲線 』

ショートガンマ線バーストの起源の一つとして、コンパクト連星の合体に伴う現象が考えられている。このショートガンマ線バーストには、プロンプト放射と呼ばれる1秒以下のガンマ線放射のあとに最大で~10^4 sec 程度の継続時間を持つX線放射が検出されている。光度曲線にはプラトーのような振る舞いを持つことから中心天体の活動性が長期間続いているも考えられる。この活動の起源については、主にマグネターモデルが議論されている。これは、もしもブラックホールが活動の起源であれば単純には質量降着率に依存する振る舞いが期待され、プラトーにならないからである。今回、ブラックホールでもBZ機構を導入することで長期間のプラトーが現れるモデルを構築した。講演では、このモデルが実現されるためにどのような点を今後理論的に検証すべきかについて述べる。

▲ ページトップへ


加藤 祐悟( 広島大学)

『 散逸を含むパルサー磁気圏モデルの作成と電気伝導度依存性 』

 散逸を含むパルサー磁気圏モデルの研究を行ってきた。散逸の導入にはオームの法則から導かれる電流密度を用い、電気伝導度の大きさは星からの距離に依存すると仮定した。軸対称のもとで電磁場の時間発展させる数値計算を行い、定常解を得ることができた。

 本講演では得られた定常解の電磁場、電流密度構造の特徴を紹介する。また、異なる電気伝導度の結果を比較し議論する。

▲ ページトップへ


浅野 豪士(愛知教育大学)

『 ブラックホール磁気圏におけるPenrose Comton 散乱過程 』

 宇宙ジェットやガンマ線バーストのエネルギー源として、ブラックホールからエネルギーを抽出するPenrose 過程(Penrose,1969)が着目されている。Penrose 過程とは、エルゴ領域内に発生する負のエネルギー領域を利用した回転エネルギー抽出機構であり、銀河中心核への応用がいくつも試みられている。特にPiran&Shaham(1977)は、エルゴ領域内で光子と電子を衝突させ、電子を負のエネルギー軌道に落下させる機構を提案している(Penrose Compton 散乱過程)。このモデルでは、散乱後の光子は落下電子のエネルギー減少分のエネルギーを上乗せして脱出することになる。ただし、この散乱過程は降着円盤の不安定性が生じなければ起こりにくい(エルゴ領域内では光学的厚みが小さいため)。

 そこで本研究は、ブラックホールの周りに磁場が存在する場合では、電子の負のエネルギー領域がエルゴ領域の外側にも発生することに着目した。そして、Piran&Shaham(1977)のモデルに磁場を取り入れ拡張し、エルゴ領域の外側でもPenrose Compton 散乱過程が起こることを発見した。数値計算に際しては、散乱角度をクラインー仁科の微分散乱断面積の公式に従う分布で発生させ、脱出する光子のエネルギー分布やエネルギー引き抜き率の分布を求めた。その結果、エネルギー引き抜き効率は下がるが負のエネルギー領域が広がるため、散乱頻度が高くなることがわかった。また、脱出する光子のエネルギー分布がガンマ線バーストのエネルギースペクトルと類似する結果を得た。

 本講演では、ブラックホール磁気圏におけるPenrose Compton 散乱過程を利用したガンマ線バーストの形成モデルを提案する。

▲ ページトップへ


福江 純 (大阪教育大学)

『 エディントン限界を再考する 』

 常識では、エディントン光度以下だとガスは降着し、以上だとガスは吹き飛ばされると考える。もちろん、ヘリウムや電子陽電子対プラズマやダストなどだとエディントン限界は変わるし、超臨界降着の場合は超エディントン光度も可能だが、エディントン光度が基本的な目安であることに変わりはない。エディントン光度(エディントン限界)は、質量降着や輻射圧駆動風では基本的概念(セントラルドグマ)だが、よくよく考えてみると、意外な検討余地があった。そもそも岩石などに対してエディントン光度は無意味だが、では、半透明~不透明なガス雲の場合はどうなのだろう。知りうる限り、そのような問題をきちんと考察したケースはないようだ。

 具体的に、球対称光源の上空に有限の光学的厚みをもった層雲が存在している場合、層雲内の輻射輸送をきちんと解くと、エディントン限界が劇的に変わることがわかった。層雲の光学的厚みが1程度なら古典的エディントン光度とほぼ一致するが、光学的厚みが小さい層雲だと臨界条件は下がり(亜エディントン光度でも楽々吹き飛ばせる→BALクェーサーやUFO問題の解決)、光学的に厚い層雲では臨界条件は上がる(超エディントン光度でも降着可能→超大質量ブラックホール形成問題の解決)。

 エディントン近似を使っている点や相対論的輻射輸送効果など今後の課題もあるが、ブラックホール周辺環境を考える上で、今後、考慮して欲しい重要な概念だと考えている。

▲ ページトップへ


伊豆丸 翔(愛知教育大学)

『 ブラックホール近傍での磁気流体波の伝播 』

 活動銀河核は、非常にコンパクトな領域から強大なエネルギーを放出しており、巨大ブラックホールの存在が示唆されている。特に、中心核からの絞られたビーム流として、宇宙ジェットが多数観測されていて興味深い。ブラックホール周辺で発生したエネルギー(降着ガスの重力エネルギーや磁場のエネルギーなど)がジェットのエネルギー源となるためには、それらのエネルギーがブラックホールの回転軸方向へ集束していかなければならない。この過程を明らかとするため、ブラックホール周辺の磁気圏における波動(磁気流体波)の伝播方向を調べ、この磁気流体波によるブラックホール近傍へのエネルギー輸送について議論する。

 ブラックホール周辺には磁化した回転トーラスと、それがつくる磁気圏が存在する状況を考える。そのうち、本講演では磁化したトーラスの領域について磁気流体波の伝播を調べた。流体分布についてはFishbone(1977)のトーラスモデルを仮定し、磁場強度はBlandford&Znajek(1977)のモデルを用いた。磁気流体波の伝播については、波動方程式を幾何光学近似し、様々な方向への射線の軌跡を計算することで調べた。その結果、ブラックホール周辺で発生した波について、トーラスの回転方向と同じ方向の成分をもって射出された波は、ブラックホールから遠ざかるように伝播していくが、回転方向と逆方向の成分をもって射出された波は、ブラックホールの回転軸方向へ集束する。更に磁場強度を強くすることで、この傾向は強まる。磁気流体波によって軸方向に集中したエネルギーは、磁気圏プラズマを加熱し、ジェットを形成すると期待する。

▲ ページトップへ


野田 宗佑(名古屋大学 )

『 Kerr時空上の波動光学とブラックホールシャドウ 』

 ブラックホールを直接観測する手段として、ブラックホールシャドウの撮像が挙げられる。ブラックホールシャドウはnull測地線(光線)の計算により描かれ、その輪郭は光の不安定円軌道に対応している。null測地線の計算は光学の言葉でいうと幾何光学の計算に相当する。一方で、光の波動性も考慮する計算は波動光学と呼ばれる。

 本研究ではブラックホールシャドウを波動光学的に描くことを目的としている。波動光学的にブラックホールシャドウの計算を行うと、ブラックホールによる散乱波の干渉パターンなどの波動効果を調べることも可能であり、幾何光学での計算に比べてより豊富な情報が得られる。
今回の発表ではスカラー波の散乱問題を考え、以下の項目について説明する。
 1. Kerr時空上での波動光学 (Kerrブラックホールを散乱体とした波の散乱問題の記述)
 2. 波動光学の幾何光学極限としてのレンズ方程式の再導出
 3. 波動の計算による、ブラックホールシャドウの輪郭の再現

▲ ページトップへ


桝田 篤樹(大阪市立大学)

『 強い重力レンズ効果による光渦の生成 』

 光渦とは,ポインティングベクトルの渦構造のことであり,レーザー光学の分野では活発に研究されている. 光渦は,宇宙物理に対する新たな探査子として期待されている.最近では,回転するブラックホール近傍を光が伝播することによって,光渦が生成されることがTamburini et alやYang & Casalsによって議論されている. しかし,ブラックホールによる光渦の生成機構や観測可能性は完全には明らかにされていない.

 本発表では,回転ブラックホール近傍の光の伝播を幾何光学近似し,重力レンズ効果による光渦の生成機構を明らかする.

▲ ページトップへ


中尾 憲一(大阪市立大学)

『 無衝突粒子から成る無限に薄い球殻の相対論的衝突過程について 』

 無衝突粒子系の進化は、宇宙物理学に置ける重要な研究テーマのひとつである。この講演では、相対論的な無衝突粒子からなる無限に薄い球殻の2体相互作用についての最近の研究成果を報告する。

▲ ページトップへ


小出 眞路(熊本大学)

『 ブラックホールが引き起こす磁気リコネクションの数値シミュレーション 」

 最近の理想GRMHD数値シミュレーションはブラックホールのまわりでは磁気回転不安定性の起こりやすい初期磁場配位からだけではなく,一様磁場からでも自発的に薄い電流層のともなった反平行磁場が形成されることを示している。このことはブラックホールのまわりでは頻繁に磁気リコネクションが起こっていることを示唆している。ブラックホールまわりの磁気リコネクションを取り扱うには,抵抗性GRMHD方程式を用いる必要がある。本講演では抵抗性GRMHDを用いたブラックホールによって誘起される磁気リコネクションの数値シミュレーションの結果について報告する。

▲ ページトップへ


黒田 健太(愛知教育大学)

『 ブラックホール近傍からの高エネルギー輻射について 』

 ブラックホールの存在を示唆する天体現象の観測はあるが、現在までに、ブラックホール自身は観測されていない。ブラックホールは、光さえも脱出できない時空を形成するため、直接観測することは不可能である。しかし、ブラックホール周辺の時空構造の情報を含む電磁波を観測することはできる。本研究は、ブラックホール近傍で起こる降着流ガスの輻射に注目し、電磁波のスペクトルによって得ることのできる時空情報の解明を目指している。

 本講演では、ブラックホール磁気圏でのMHD降着流に焦点を絞り、降着流ガスの速度分布、数密度分布などについて議論する。

▲ ページトップへ


森山 小太郎(京都大学)

『 ブラックホールスピンの新測定法: ブラックホールに落下するガスリングの光度特性 』

 本発表では従来の方法とは独立なスピン決定法を提唱するために、ブラックホールの最内縁安定円軌道半径のすぐ内側から角運動量を持って落下するガスを考える。落下するガスは光学的に薄く、単一振動数の放射をすると仮定する。遠方の観測者により観測された光は(i) 重力レンズ効果; (ii) ビーミング効果; (iii) 光円軌道半径集光効果; (iv) 重力赤方偏移の4つの相対論的効果を受ける。これらの効果による光のフラックスの時間変動と振動数偏移を、ガス塊がブロブ (球) 状の場合とリング状の場合に分けて、一般相対論的シミュレーションを実行して求めた。

 その結果、ガスブロブの示すライトカーブは相対論的効果(i), (ii)によって複数のピークを持ち、最初緩やかに増光し [効果(iii)]、 その後急激に減光 [効果(iv)]することがわかり、これらの特徴はスピンに依存することが分かった。

 ガスリングの場合、ライトカーブはガスブロブモデルのライトカーブのピークを、位相を変えて無限個足しあわせた滑らかな曲線となる。光子数は、効果 (i), (ii) により、青方偏移、赤方偏移した2つの振動数で極大となる。前者の振動数の時間平均と、ライトカーブ全体の変動の関係を調べることによって、リングの太さによらず、スピンと軌道傾斜角を、同時かつ一意に決定できることを見いだした。最後に、ブラックホール連星で観測されているX線ショットと本モデルとの関連性について議論する。

▲ ページトップへ