ABSTRACT of BHmag2018

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アブストラクト集

更新日: 2018-02-26

ブラックホールらしさについて

中尾憲一(大阪市立大)

 大きな赤方偏移、BH shadow、重力波の quasi-normal mode などを通して、 ブラックホールの存在を確認できると考えられている。 これらが観測された場合、 どの程度ブラックホールの存在が確認できたことになるのかを考察 する。

数値シミュレーションによる重力崩壊過程にある星の撮像

高橋 一麻(大阪市立大)

 遠方にいる観測者が自己重力によって崩壊している星から放射された光を像として得る場合、重力赤方偏移や重力レンズ効果を受けた光を見る事になり、さらに星の表面が運動することによるドップラー効果や強い重力場によって光の軌道が円を描く不安定円軌道などを加味すると、観測者の見る像が時々刻々とどのように変化していくか自明ではない。
 そこで本発表では、星が重力によってブラックホールへ崩壊し得る事を一般相対論に基づいて初めて示したOppenheimer-Snyder Collapseを用いて、崩壊している星の像を赤方偏移を共に数値計算し、アニメーションにしてお見せする。
 また、一般に崩壊の最終段階では不安定円軌道から漏れ出る光を観測者が見る事になり、赤方偏移が十分強いためそれらは検出不能になると考えられているが、そうとは限らない事も示す。 

「モデルポテンシャルでみる、ブラックホールとその疑似天体による波の散乱の違い」

野田宗佑(名古屋大)

 ブラックホール時空における光線の運動に対する有効ポテンシャルは、ホライズンの外側にただ1つだけピークを持つ。このピークの位置は光の不安定円軌道、ブラックホールシャドウの輪郭に対応し、このピークを越えて内側に落ちていく光線はホライズンの存在により、外に返ってくることはない。
 本発表では有効ポテンシャルがピークを持つが、ホライズンを持たないような天体(ブラックホール擬似天体)について考える。その例として、
 1.不安定円軌道を持つ星
 2.有効ポテンシャルが同じ高さのピークを2つ持つ天体(ワームホールのモデル)
について考える。特に後者の場合には、外側のピークを越えて内に落ちていく光線はブラックホールの場合と同様、外側へは戻ってこないため、光線の散乱を調べる限りブラックホールとは区別がつかない。しかし、有限の波長を持つ波の散乱を考えると、波動効果により内側のピークによる散乱があり、ピーク間に波の共鳴状態が存在するため、ブラックホールの場合の散乱波と違いが見られる。発表ではこの違いがどのような観測量に現れるかについても議論する。

原始ブラックホールについて

原田知広(立教大)

 LIGOによって観測されたブラックホール連星による重力波イベントの波源の起源として、そして暗黒物質の候補として、原始ブラックホールが最近再び注目されている。本講演では、原始ブラックホールに関する基礎的事項を簡単に導入したあと、その形成理論の最近の進展を我々の研究成果を中心に紹介する。最後に、原始ブラックホールが投げかけるブラックホール宇宙物理学の新しい方向性について考察を行う。

プラズマ中の密度波ソリトンによる粒子加速機構

石原秀樹(大阪市立大)

 プラズマ中の密度波を記述する方程式にはソリトン解がある.円筒対称性や球対称性をもつソリトン解を考えると,波が中心に向かうにしたがってその波高が半径の冪に従って大きくなる.この密度波は,電子とイオンの密度分布にずれがあるので,電場を伴っている.この電場をポテンシャルによって表すと,円筒あるいは球殻状のポテンシャル壁によって閉じ込められた荷電粒子は運動するポテンシャル壁によって加速されることになる.この加速機構による粒子のエネルギースペクトルについて議論する.

磁気流体理論における高速磁気再結合過程

清水 徹(愛媛大 宇宙進化研究センター)

 磁気再結合過程は宇宙プラズマの大規模かつ急激なエネルギー変換機構として最有力視されている。過去50年以上にわたる磁気流体理論における高速な磁気再結合過程研究を概観し、最近の話題として、PetschekモデルとPlasmoid instabilityモデルについて考え、理論的、数値的、惑星磁気圏の観測的な視点から、速い磁気再結合過程の問題点について発表する。

ブラックホールまわりでの磁気リコネクションの数値計算

小出眞路( 熊本大)

 回転するブラックホールのまわりでは磁気リコネクションが起こるような薄い電流シートをともなった反平行磁場が形成されることが一般相対論的理想 MHD(理想 GRMHD)の数値シミュレーショ ンから明らかになってきた。これは,磁気回 転不安定性が起こる初期条件の時ばかりではなく,一様磁場が初期に与えられるような場合にも形成される。ブラックホール磁気圏での磁気リコネクションを取り扱うためには,電気 抵抗を考慮した一般相対論的 MHD(抵抗GRMHD) 方程式を用いる必要がある。今回,シュワルツシルドブラックホールのまわりでの比較的単純な反平行磁場配位における磁気リコネクションの抵抗性 GRMHD 数値計算について報告する。

相対論的一般化されたオームの方程式のΘの決定

松枝直紀( 熊本大)

 ブラックホールまわりのプラズマには構成する粒子によって電子-イオンプラズマ、電子-陽電子プラズマなど様々な種類がある。それぞれのプラズマにはそれぞれの特性があり、その特性を取り込んだ支配方程式として一般化された一般相対論的MHD方程式(GRMHD方程式)がある。一般化されたGRMHD 方程式の中で相対論的な一般化されたオームの法則は中心的役割を担う。相対論的な一般化されたオームの法則は、相対論的2流体方程式において摩擦で生じる熱エネルギーの分配率θを仮定することによって導出できる。電子-イオンプラズマではθは0とできるが、電子-陽電子プラズマでは容易に決定できない。そこで、電子-陽電子プラズマのフォッカー・プランクの衝突項を用いた運動論によりθの値の決定する。これによりブラックホール磁気圏まわりの電子ー陽電子プラズマのオームの法則が与えられ、その一般化GRMHDの数値計算が可能となる。

3D GRMHD シミュレーションによるブラックホール降着円盤

水田 晃(理研)

 銀河中心の超巨大質量ブラックホール降着円盤の系からはジェットを噴出するものがあり、そのバルク速度は光速近くにまで達する。差動回転していると考えられる降着円盤内部では、磁気回転不安定性(magneto-rorational instability : MRIにより弱い種磁場からでも、指数関数的に磁場を増幅し、角運動量輸送も担うことから、Shakura & Sunyaev(1973)の標準降着円盤モデルで考えられたアルファ粘性の本質になっていると考えられる。増幅された磁場は降着物質と共に、円盤内縁、更にはブラックホール表面まで供給され、ジェット形成にも重要な役割を果たす。ブラックホール降着円盤の系からのジェット形成では、MRI をの最大成長波長を解像することが重要であり、今回は高解像度での3D-GRMHD シミュレーションで、円盤内部での磁場増幅や、ジェット中に見られるフレア的ポインティング光度の増幅の起源などを議論する。

CANS+を用いたブラックホール降着流の磁気流体シミュレーション

松元亮治(千葉大)

 高次精度円筒座標系3次元磁気流体コードCANS+の改訂を進め、ブラックホール降着流への適用を試みている。テスト計算結果と輻射磁気流体コードへの拡張について紹介したい。

カイラル電磁流体中でのダイナモとそのコンパクト天体への影響

政田洋平( 愛知教育大)

 電子やニュートリノ等のフェルミオンは“カイラリティ”と呼ばれる性質を持ち, 左巻きと右巻きが明確に区別される。左右の対称性が保たれている限り, カイラリティは巨視的なプラズマダイナミクスに影響を及ぼすことは無いが, 対称性の破れをともなうプラズマでは,『カイラル磁気効果 (Chiral Magnetic Effect)』(磁場をかけるとその方向に電流が流れる効果)と呼ばれる量子効果が, そのダイナミクスを劇的に変化させると考えられている(e.g., Vilenkin 1980)。電子捕獲反応によって左巻きニュートリノと右巻き電子が大量に生成される重力崩壊型超新星は, 宇宙で最も『パリティの破れ』が生じうる場所であり,その爆発ダイナミクスにとってカイラル対称性の破れが本質的に重要な役割を果たす可能性がある(c.f., Kharzeev 2014; Yamamoto 2016)。
 現在我々は, 超新星爆発に対するカイラル対称性の破れの影響を定量的に理解するために,カイラル電磁流体の非線形発展を3次元シミュレーションで詳しく調べている。これまでの研究で, (1)カイラルプラズマ不安定性に起因したダイナモ効果で, 磁場の指数関数的増幅が生じること,
 (2) 磁場と速度場のインバースカスケードで, 巨視的な磁場・流場構造が生じること,
 (3) 飽和状態における磁場のスペクトルは k^-2 に比例する一方, 速度場のスペクトルは
   k^-5/3 に比例すること,
などを明らかにした。本講演では, バリオン込みのカイラル電磁流体の定式化やカイラルプラズマ不安定性, 及びその乱流α効果とのアナロジーについて解説するとともに,カイラル磁気効果が駆動するダイナモがコンパクト天体の進化に及ぼす影響について議論する予定である。

Force-Free磁気圏における1次摂動からの波動効果

塚本拓真(名古屋大)

ブラックホール周辺にアクシオンが存在する場合の電磁波の発生・伝播について

吉野裕高( 大阪市立大)

 アクシオンは素粒子物理における強いCP問題を解決するために導入された質量を持つスカラー場である。また、類似の場が多数存在する可能性が超弦理論の文脈で議論されている。このようなスカラー場が存在すれば、 Blandford-Znajek 機構と類似の「超放射」という過程を通じて回転ブラックホールのエネルギーを引き抜き、アクシオンの雲を形成する。そして電磁場との相互作用によって電磁波を発生させたり、通過する電磁波の軌道を変えたりする。本講演ではアクシオン雲の形成に関するレビューをした後、アクシオンが電磁波に与える影響が観測可能かどうかを議論する。

銀河系中心巨大BHの一般相対論効果の探査と関連するサイエンス

斉田浩見(大同大)

 我々の銀河中心の巨大BH候補天体 Sagittarius A*(Sgr A*,いて座Aスター)の一般相対論効果の測定と関連する科学目標の達成のため,2014年からSgr A*を巡る恒星S2の理論・観測研究を続けている。S2が2018年の近点通過で感じるSgr A*の重力場の強度は,Hulse-Taylor パルサーなど過去に電磁波観測で測定された重力場よりも2ケタ強く,相対論効果の測定の良いプローブである。S2の運動をすばる望遠鏡によって高精度測定し,ニュートン力学でなく一般相対論の軌道計算でフィットできることを検出することを目指す。また,PPNパラメータを評価するなどして,一般相対論の検証も行いたい。さらに,S2とは別の星S24なども使うことで,測定精度を上げることも検討している。以上の研究の現状を報告する。

ブラックホール、円盤からジェットへの流れ

小嶌康史( 広島大)

(量子)波動光学を用いたブラックホールの撮像:Hanbury Brown - Twiss効果の応用について

南部保貞( 名古屋大)

 波動光学に基づく像形成は波のフーリエ変換として理解出来る.これは波動に対する1次のコヒーレンス
の性質を用いるものであるが,それに対して2次のコヒーレンス(強度-強度相関)を用いるHanbury Brown - Twiss (HBT)の方法は波の位相情報を用いないために外的なノイズ(大気の揺らぎなど)の影響を受けにくい特徴を持つ.さらに波の量子性そのものを区別できるため天体観測以外の様々な分野での応用が考えられている.本講演ではHBT効果の基本的な概念をレビューし,それをブラックホール系の撮像に用いたときにどのようなことが期待できるかを紹介する.

ブランドフォードナエク機構のフォースフリー磁気動力学シミュレーション

今村知貴( 熊本大)

 我々はブランドフォード・ナエク機構における因果的過程を明らかにするために,自転するブラックホールのカーシルド座標を用いたフォースフリー電磁場の動的な1次元の数値計算を行ってきた.それによるとエネルギー流束はエルゴ領域付近にあたかもその源があるようにブラックホール近傍から湧き出し,その源からエネルギー流束はほぼ定常解に一致する値で外側に広がってゆくことが示された.このエネルギー流束の湧き出しは空間の引きづり効果によって生じる.前回の数値計算では磁力線の初期形状は放射状を仮定した.今回は磁力線の形状が4重極磁場に相当する場合など一般の磁気形状についての結果を示す.

BZモノポール解の磁場の角速度の決まり方について

孝森洋介(和歌山高専)

 Blandford-Znajek機構の効率は磁場の角速度に依存している。そのため,ブラックホール磁気圏において磁場の角速度がどこでどのように決まっているのかを知ることは重要であるが,それは自明ではない。パルサー磁気圏では,磁場の角速度は中性子星の自転角速度に等しいと仮定するのがもっともらしいが,ブラックホールの場合,星の表面があるわけではない。ゆっくり回転しているKerrブラックホールまわりのforce-free磁気圏の近似解としてBlandford-Znajekモノポール解が知られており,このBZ解では磁場の角速度がおよそブラックホールの角速度の半分であると決まっている。この発表では,対称軸付近の磁場に注目し,BZ解の磁場の角速度がどのような条件で決まっているのかを改めて考える。

BH磁気圏磁場構造とBZ-flux分布

高橋真聡( 愛知教育大)

 ブラックホール磁気圏におけるブラックホール回転エネルギーの引き抜き機構(Blandfird-Znajek 機構)について議論する。エネルギー引き抜きの効率は、磁場形状と磁気圏回転角速度そしてブラックホール回転角速度に依存する。本講演では、磁場が支配的な状況(force-free近似)において磁力線間の力の釣り合いの式(transfield 方程式)を数値的に解き、自己矛盾のない磁場形状を得た。その形状はブラックホール回転角速度と磁力線回転角速度の分布に依存して、(i) Jet-like 形状:ブラックホールの回転軸方向に湾曲したもの、(ii) Conical 形状、(iii) Disk-like 形状:回転軸から離れる方向に湾曲していく、(iV) Jet-Disk 形状:(i) と (iii)の混合タイプ、に分類できる。その各々について、Blandford-Znajek Power の効率について評価し、天体現象への適用について考察する。